未払いの残業代を請求したい。離職理由が事実と違う。労災の申請をしたい。
どれも、記録がないと動けません。そして記録は、会社の側にあります。
この記事でわかること
- 会社が保存することになっている書類
- 保存期間は5年か3年か
- 辞める前に写しておくもの
- 請求できるものと、できないもの
結論:3年で消えます
条文が2つに分かれています。

労働基準法109条です。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
5年と書かれています。ただし、附則143条1項に読み替えの規定があります。
第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
つまり当分の間は3年です。条文の本則だけを見ると5年に見えますが、実際に動いているのは3年のほうです。
3年を過ぎると、会社に保存の義務はなくなります。辞めてから思い出しても、そのときには残っていない可能性があります。


何が保存されているのか
109条が並べています。

| 書類 | 根拠 | 何が書かれているか |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 107条1項 | 氏名、生年月日、履歴など |
| 賃金台帳 | 108条 | 賃金計算の基礎となる事項と賃金の額 |
| 雇入れに関する書類 | 109条 | 雇用契約書、労働条件通知書など |
| 解雇に関する書類 | 109条 | 解雇予告、解雇理由の証明書など |
| 災害補償に関する書類 | 109条 | 労災の請求や補償の記録 |
| 賃金に関する書類 | 109条 | 賃金の決定や支払いに関するもの |
賃金台帳が要になります。108条は、賃金計算の基礎となる事項と賃金の額を、賃金支払の都度、遅滞なく記入しなければならないとしています。
労働時間も、この賃金計算の基礎に含まれます。だから残業代を計算するときの材料が、ここにあります。


労働者名簿は「変更があれば訂正」です
107条2項です。記入すべき事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければならないとされています。
つまり過去の状態は上書きされていくことがあります。いつからどの部署にいたか、といった履歴が、名簿だけでは追えない場合があります。
その意味でも、自分の側の記録が要ります。名簿は会社が作るものなので、こちらから内容を確かめる機会もほとんどありません。異動や役職の変更があった時期は、辞令や社内の通知を自分で残しておいてください。

辞める前に写しておくもの
ここが本題です。

在職中なら手元にあるか、見せてもらえるものです。辞めたあとは、会社に取りに行くことになります。
| 何 | なぜ要るか | どこにあるか |
|---|---|---|
| 給与明細(3年ぶん) | 残業時間、手当、控除の記録 | 自分 |
| 労働条件通知書・雇用契約書 | 約束された条件 | 自分 |
| 就業規則・賃金規程 | 賞与、退職金、休職の定め | 会社(周知義務あり) |
| タイムカード・勤怠記録 | 実際の労働時間 | 会社 |
| 36協定 | 残業の上限の取り決め | 会社(周知義務あり) |
| シフト表 | 働く約束があったこと | 会社またはアプリ |
就業規則と36協定は、周知することになっています。労働基準法106条1項が、掲示か備え付け、書面の交付、常時確認できる機器の設置のいずれかを求めています。見せてほしいと言うこと自体は問題になりません。
タイムカードは会社側にあります。在職中に写真を撮っておくのが、いちばん確実です。


退職のときに請求できるもの
条文で請求できると決まっているものがあります。

労働基準法22条1項です。
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
請求すれば、遅滞なく交付しなければなりません。書かれるのは、使用期間、業務の種類、地位、賃金、退職の事由の5つです。
解雇された場合は、その理由も含まれます。離職票の離職理由が事実と違うときに、これが材料になります。
なお同条2項では、解雇の予告がされた日から退職の日までの間に、解雇の理由について証明書を請求できるとされています。退職を待たずに求められる場面です。


3年という期限は、時効とも重なります
期限が2つ走ります。

労働基準法115条は、賃金の請求権を5年としています。ただし附則143条3項により、当分の間は退職手当が5年、それ以外の賃金は3年です。
請求できる期間が3年で、記録が残る期間も3年です。ほぼ同じ長さで動いています。
だから、辞めてから2年半経って「あの残業代はどうなったのか」と思っても、請求できる期間の終わりと、記録が消える時期が同時に来ます。
動くなら早いほうが有利です。そして在職中に写しておけば、記録のほうは自分の手元に残ります。
時効の起算点は、それぞれの賃金の支払日です。3年前の1か月ぶんから順に消えていく形になります。たとえば毎月25日払いの会社なら、今日から3年前の25日ぶんが、いま消えようとしているところです。
だから「まとめてあとで」ではなく、気づいた時点で古いほうから見ることになります。


よくある質問
- 会社は記録を何年保存しますか
-
労働基準法109条は5年としていますが、附則143条1項により、当分の間は3年と読み替えられています。実際に動いているのは3年のほうです。
対象は、労働者名簿、賃金台帳、雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類です。3年を過ぎると保存の義務はなくなるので、辞めてから思い出しても残っていない可能性があります。
- 賃金台帳には何が書かれていますか
-
労働基準法108条により、賃金計算の基礎となる事項と賃金の額、その他厚生労働省令で定める事項が記入されます。記入するのは賃金支払の都度、遅滞なくとされています。
労働時間も賃金計算の基礎に含まれるため、残業代を計算するときの材料がここにあります。自分の給与明細と突き合わせると、時間や手当の食い違いが見えることがあります。
- 就業規則を見せてもらえません
-
見せてほしいと言うこと自体は問題ありません。労働基準法106条1項が、就業規則を労働者に周知させることを使用者に義務づけています。
方法は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示するか備え付けること、書面を交付すること、電子的に記録して常時確認できる機器を設置することの3つです。どれもされていない場合は、周知義務が果たされていない状態になります。
- 辞めたあとに記録をもらえますか
-
労働基準法22条1項により、退職の場合に、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由について証明書を請求できます。使用者は遅滞なく交付しなければなりません。
ただし請求できるのはこの証明書であって、タイムカードや賃金台帳そのものを渡すよう求める規定ではありません。実際の労働時間の記録が必要なら、在職中に写しておくことになります。
- 何を写しておけばいいですか
-
自分の手元に残らないものからです。タイムカードや勤怠記録、就業規則と賃金規程、36協定、シフト表。これらは会社側にあります。
給与明細と労働条件通知書は自分の手元に残るので、捨てないことが先になります。就業規則と36協定は周知の対象なので、見せてほしいと言えます。写真で撮っておけば、辞めたあとも読み返せます。
- 解雇の理由を書面でもらえますか
-
もらえます。労働基準法22条1項の証明書には、退職の事由が解雇の場合、その理由も含まれます。
さらに同条2項により、解雇の予告がされた日から退職の日までの間に、解雇の理由について証明書を請求することもできます。退職を待たずに求められる形です。離職票の離職理由が事実と違うと思うときに、これが材料になります。
- 請求できる期間はどれくらいですか
-
賃金の請求権は労働基準法115条で5年ですが、附則143条3項により、当分の間は退職手当が5年、それ以外の賃金は3年です。
記録の保存期間も当分の間3年なので、ほぼ同じ長さで動きます。辞めてから2年半経って気づくと、請求できる期間の終わりと記録が消える時期が重なります。動くなら早いほうが有利です。
- 会社が記録を出さない場合はどうなりますか
-
労働基準監督署に相談できます。109条の保存義務も、106条1項の周知義務も、22条の証明書の交付義務も、労働基準法の規定です。
ただし監督署が動くのと、自分の手元に記録が届くのは別です。未払い賃金の請求まで進めるなら、扱えるのは弁護士だけになります。労働組合が運営する退職代行では扱えません。先に自分で写せるものを写しておくほうが、結果的に早く進みます。
まとめ:3年で消えます
整理します。
- 保存期間は労基法109条で5年。ただし附則143条1項により当分の間3年
- 対象は労働者名簿・賃金台帳・雇入れ・解雇・災害補償・賃金に関する書類
- 賃金台帳は賃金支払の都度、遅滞なく記入(108条)。労働時間もここに入る
- 就業規則と36協定は周知の対象(106条1項)。見せてほしいと言える
- 退職時は証明書を請求できる(22条1項)。解雇ならその理由も含まれる
タイムカードと就業規則を、在職中に写真で撮ってください。辞めたあとは取りに行くことになります。


