「裁量労働制だから残業代は出ない」と言われました。
深夜と休日は、実際に働いた時間で払われます。
この記事でわかること
- みなし時間で変わるのは何か
- 対象になる20業務
- 深夜・休日の割増は別に出ること
- 2024年4月から本人の同意が要ること
結論:変わるのは「時間の数え方」だけです
制度の効果は限定されています。

労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
「みなす」の対象は労働時間の算定です。厚生労働省の専門業務型裁量労働制の解説(令和6年4月1日施行)には、こう書かれています。
労働基準法第35条の休日労働に関する規定および労働基準法第37条の深夜時間帯の労働に関する規定は専門型によって労働時間を算定する場合にも適用され、適用労働者が休日および深夜労働をした場合には、みなし労働時間ではなく、実際に働いたその時間に応じて割増賃金を支払わなければなりません。また、労働基準法第34条の休憩や労働基準法第39条の年次有給休暇などの規定も適用されます。
休日・深夜・休憩・年次有給休暇は、そのまま残ります。


みなし時間が8時間を超えていれば、その分の割増が要ります
ここも見落とされます。
同じ解説の記述です。
法定労働時間を超えてみなし労働時間を設定する場合には、36協定を締結する必要があります。また、みなし労働時間のうち法定労働時間を超えている部分については、割増賃金の支払いが必要になります。
みなし時間が1日9時間と定められているなら、8時間を超える1時間分の割増賃金は、毎日発生します。実際に何時間働いたかにかかわらず、です。
自分の労使協定に何時間と書かれているかを確認してください。給与明細に「裁量手当」などの名目で入っている場合もあります。


対象は、20業務の限定列挙です
そもそも適用できる業務が決まっています。

労働基準法施行規則24条の2の2第2項が5つを挙げ、残りは厚生労働大臣の指定です。合わせて20業務になります。
| # | 業務 |
|---|---|
| ① | 新商品・新技術の研究開発、人文科学・自然科学の研究 |
| ② | 情報処理システムの分析または設計 |
| ③ | 新聞・出版の記事の取材・編集、放送番組制作のための取材・編集 |
| ④ | 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案 |
| ⑤ | 放送番組、映画等の制作のプロデューサーまたはディレクター |
| ⑥ | コピーライター |
| ⑦ | システムコンサルタント |
| ⑧ | インテリアコーディネーター |
| ⑨ | ゲーム用ソフトウェアの創作 |
| ⑩ | 証券アナリスト |
| ⑪ | 金融商品の開発 |
| ⑫ | 大学における教授研究(主として研究に従事するもの) |
| ⑬ | 銀行・証券会社におけるM&Aに関する調査・分析・助言 |
| ⑭〜⑳ | 公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士 |
この一覧に無い仕事は、専門業務型の対象になりません。営業職や一般の事務職は入っていません。
解説には、細かい線引きも書かれています。②について「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれません」、③について「記事の取材に当たって、記者に同行するカメラマンの業務や、単なる校正の業務は含まれません」、④について「考案されたデザインに基づき、単に図面の作成、製品の制作等の業務を行う者は含まれません」。
同じ部署にいても、担当する業務で分かれます。


2024年4月から、本人の同意が要ります
ここが新しい部分です。

労働基準法施行規則24条の2の2第3項1号です。
使用者は、法第三十八条の三第一項の規定により労働者を同項第一号に掲げる業務に就かせたときは同項第二号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
2つのことが定められています。本人の同意を得なければならないことと、同意しなかった人を解雇その他不利益に扱ってはならないことです。
そして次の号に、撤回の話が出てきます。
二 前号の同意の撤回に関する手続
同意は撤回できます。その手続きを労使協定に定めることになっています。厚生労働省の解説にも「適用労働者は、同意を撤回することができます」と書かれています。
自分が同意した記憶がないまま適用されているなら、そこが出発点になります。まず労使協定と、同意の書面を確認してください。


記録は5年間、保存されています
自分の労働時間の記録は残っています。

同じ施行規則の4号です。
使用者は、次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後五年間保存すること
対象は、労働時間の状況と健康・福祉を確保するための措置の実施状況、そして苦情の処理に関する措置の実施状況です。

健康面の仕組みもあります。解説によれば、1週間当たりの労働時間のうち40時間を超える時間が月80時間を超えた労働者に対し、本人の申し出があった場合には医師による面接指導を実施しなければなりません。
申し出が要件になっています。黙っていると始まりません。

確かめる順番は3つです
自分の状況を整理します。
| 見るもの | 何を確かめるか |
|---|---|
| 労使協定 | 対象業務と、みなし労働時間が何時間か |
| 同意の書面 | 自分が同意しているか。撤回の手続きはどう書かれているか |
| 給与明細と勤怠記録 | 深夜・休日の割増が別に出ているか |
自分の仕事が20業務のどれに当たるのかを、会社に確認してください。当たらない業務に適用されているなら、そこから話が変わります。
深夜や休日に働いた記録は、自分でも残しておいてください。会社の記録と突き合わせる材料になります。


よくある質問
- 裁量労働制なら残業代は出ないのですか
-
出る場合があります。厚生労働省の解説は、みなし労働時間のうち法定労働時間を超えている部分については割増賃金の支払いが必要になる、としています。みなし時間が1日9時間と定められていれば、8時間を超える1時間分は毎日発生します。
さらに、休日労働と深夜労働は別扱いです。労働基準法35条の休日労働に関する規定と37条の深夜時間帯の労働に関する規定は裁量労働制でも適用され、みなし労働時間ではなく実際に働いたその時間に応じて割増賃金を支払わなければならないとされています。
- 自分の仕事は対象になりますか
-
対象は省令と告示で定められた20業務の限定列挙です。研究開発、情報処理システムの分析・設計、記事の取材・編集、デザインの考案、番組制作のプロデューサーやディレクター、コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲーム用ソフトウェアの創作、証券アナリスト、金融商品の開発、大学の教授研究、銀行・証券会社のM&A業務、そして公認会計士・弁護士・建築士・不動産鑑定士・弁理士・税理士・中小企業診断士の業務です。
営業職や一般の事務職はこの一覧に入っていません。同じ部署でも担当業務で分かれるので、労使協定に書かれた対象業務と自分の仕事内容を照らしてください。
- プログラマーは対象ですか
-
厚生労働省の解説に「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれません」と明記されています。②の対象は情報処理システムの分析または設計の業務です。
解説では、ニーズの把握やユーザーの業務分析に基づく業務処理方法の決定と機種の選定、入出力設計や処理手順の設計などアプリケーション・システムの設計、システム稼働後の評価や問題点の発見とその改善が対象業務として説明されています。
- 同意していないのに適用されています
-
2024年4月から本人の同意が要件になりました。労働基準法施行規則24条の2の2第3項1号が、みなし労働時間の適用について労働者の同意を得なければならないことと、同意をしなかった労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことを定めています。
まず労使協定と、自分が署名した同意の書面があるかを確認してください。見当たらない場合は、会社に確認を求めることになります。
- 同意を撤回できますか
-
できます。施行規則24条の2の2第3項2号が、同意の撤回に関する手続を協定で定める事項として挙げています。厚生労働省の解説にも「適用労働者は、同意を撤回することができます」と書かれています。
撤回の手続きは労使協定に定められているので、まずその内容を確認してください。撤回したことを理由とする不利益な取扱いについても、同意しなかった場合と同じ考え方になります。
- 有給や休憩はどうなりますか
-
そのまま適用されます。厚生労働省の解説は、労働基準法34条の休憩や39条の年次有給休暇などの規定も適用されると書いています。
裁量労働制で変わるのは労働時間の算定方法であって、休憩や年次有給休暇の権利が消えるわけではありません。付与日数も、勤続年数に応じて他の労働者と同じです。
- 働きすぎているときは何ができますか
-
医師による面接指導の仕組みがあります。1週間当たりの労働時間のうち40時間を超える時間が月80時間を超えた労働者に対して、本人の申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施しなければならないとされています。
申し出が要件になっているので、黙っていると始まりません。あわせて、会社は労働時間の状況や健康・福祉確保措置の実施状況を労働者ごとに記録し、協定の有効期間中とその満了後5年間保存することになっています。
- 会社が協定を見せてくれません
-
労使協定は、労働基準法106条の周知の対象です。掲示や備え付け、書面の交付、パソコンでの閲覧といった方法で、労働者が知ることができる状態にしておく必要があります。
協定には対象業務とみなし労働時間が書かれているので、自分の状況を確かめる出発点になります。出てこない場合は、労働基準監督署に相談できます。専門業務型の協定は様式第13号で所轄労働基準監督署長に届け出ることになっているため、届出の有無も確認の材料になります。
まとめ:消えるのは数え方だけです
整理します。
- 「みなす」の対象は労働時間の算定(労基法38条の3第1項)
- 休日・深夜は実際に働いた時間で割増賃金(35条・37条)
- みなし時間が法定労働時間を超える部分にも割増が要る
- 対象は20業務の限定列挙。営業職や一般事務は入っていない
- 2024年4月から本人の同意が要り、撤回もできる
まず労使協定を見て、みなし時間が何時間かを確かめてください。そこから逆算できます。


