就業規則に「副業禁止」と書いてあります。だから諦める、の前に一度読んでください。
厚生労働省のモデル就業規則は、「できる」から始まっています。
この記事でわかること
- 原則は「勤務時間外は自由」であること
- 会社が禁止・制限できる4つの場合
- 結論が分かれた5つの裁判例
- 労働時間が通算されるということ
結論:原則は「できる」で、例外が4つです
出発点を間違えないでください。

厚生労働省が公表しているモデル就業規則(令和7年12月版)の第70条です。
第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
「することができる」です。禁止から書き始めていません。
同じ資料の解説には、その理由も書かれています。
労働者の副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由であることが示されている
勤務時間の外は、原則として自分の時間です。会社の許可が要る、という構造ではありません。


会社が止められるのは、4つの場合です
例外は限定されています。

同じ70条の2項です。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
| # | 場合 | 中身の例 |
|---|---|---|
| ① | 労務提供上の支障 | 副業が原因で本業が十分に行えない。長時間労働で健康に影響が生じるおそれ |
| ② | 企業秘密の漏洩 | — |
| ③ | 名誉・信用の毀損、信頼関係の破壊 | — |
| ④ | 競業により企業の利益を害する | — |
①について、解説はこう書いています。
副業・兼業が原因で自社の業務が十分に行えない場合や、長時間労働など労働者の健康に影響が生じるおそれがある場合
「副業をしていること」ではなく、「本業に支障が出ること」が理由です。ここが分かれ目になります。
そして解説には、会社側への注意も書かれています。
就業規則の規定を拡大解釈して、必要以上に労働者の副業・兼業を制限することのないよう、適切な運用を心がけていただくことが肝要です


裁判例は、どこで分かれたか
実際に争われた事例が、モデル就業規則に5件載っています。

| 事件 | 副業の中身 | 結論 |
|---|---|---|
| 東京都私立大学教授事件(東京地判平20.12.5) | 無許可で語学学校の講師など | 解雇無効 |
| 十和田運輸事件(東京地判平13.6.5) | 年に1、2回の貨物運送のアルバイト | 解雇無効 |
| 小川建設事件(東京地決昭57.11.19) | 毎日6時間のキャバレーでの無断就労 | 解雇有効 |
| 橋元運輸事件(名古屋地判昭47.4.28) | 管理職が競業他社の取締役に就任 | 解雇有効 |
無効になった側から読むと、線が見えます。
大学教授の事件では、副業が夜間や休日に行われており、本業への支障は認められないとして解雇が無効になりました。十和田運輸事件では、年に1、2回の頻度について、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまではいえないとされています。
有効になった側は毛色が違います。小川建設事件は毎日6時間、深夜のキャバレーです。判断はこうでした。
兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高い
橋元運輸事件は競業です。直接経営に関与していなくても、管理職が競業他社の取締役になったことが懲戒解雇事由に当たるとされました。
分かれ目は「副業をしたかどうか」ではなく、本業に支障が出る蓋然性と、競業かどうかです。

不許可にした側が負けた事例もあります
5件目がこれです。
マンナ運輸事件(京都地判平24.7.13)では、運送会社が準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしました。裁判所は後の2回については不許可の理由がないとして、不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容しています(認められたのは慰謝料のみ)。
許可制そのものが否定されたわけではありません。ただ、理由なく断り続けることはできない、ということです。

労働時間は、通算されます
ここは知らないと損をします。

労働基準法38条1項です。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
「事業場を異にする場合」の意味は、昭和23年5月14日基発第769号で示されています。
「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。
別の会社で働いた時間も、足して数えます。本業で8時間働いた日に副業で3時間働けば、その3時間は法定労働時間を超える部分になります。
通算の具体的な方法は「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」(令和2年9月1日付け基発0901第3号)に示されています。
つまり副業は「時間外の話」で終わりません。割増賃金や、時間外労働の上限規制にも関わります。会社が①の「労務提供上の支障」を気にするのは、ここに使用者としての義務があるからです。


届出を出さないまま始めた場合
黙って始める人は少なくありません。
モデル就業規則の解説は、その場合の会社側の扱いにも触れています。
まず、労働者に届出を求め、本規程例第2項各号で規定したような場合に該当しないかの確認や、該当しない場合であって労働時間の通算の対象となるときにおいては、他の使用者の事業場における所定労働時間等の確認を行い、適切に、労働時間の管理を行いつつ、労働者が副業・兼業を行うことができるようにすることが望ましいです
「まず届出を求める」であって、いきなり処分ではありません。
そしてもう一つ、押さえておくところがあります。
副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできません。
相談したこと自体を理由に不利に扱うことは、できない扱いです。

ただし現実には、無断で始めて長時間になり、本業に支障が出たところで問題になります。小川建設事件がその形でした。先に届け出るほうが、結果的に自分を守ります。

まず、自分の就業規則を読んでください
モデル就業規則は「モデル」です。
自分の会社の就業規則がどう書いてあるかは、実物を見ないと分かりません。見る順番は3つです。
| 見る場所 | 何を確かめるか |
|---|---|
| 副業・兼業の条項 | 「禁止」か「届出制」か「許可制」か |
| 禁止・制限の理由 | 4つの類型と同じことが書かれているか |
| 懲戒の条項 | 違反したときに何が起きると書いてあるか |
就業規則は、労働基準法106条により周知が義務づけられています。「見せられない」と言われる筋合いのものではありません。
なお、一律に「副業は一切禁止」と書いてある規則が、そのまま全部有効になるわけではありません。裁判例は、本業への支障や競業といった実質で判断しています。ただし規則の文言が争いの入口になるので、まず何と書いてあるかを確かめてください。


よくある質問
- 就業規則で副業を禁止できますか
-
一律の全面禁止は、そのまま有効になるとは限りません。厚生労働省のモデル就業規則70条1項は「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と定めていて、原則は認める形になっています。
会社が禁止または制限できるのは、2項が挙げる4つの場合です。労務提供上の支障がある場合、企業秘密が漏洩する場合、会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合。解説にも、規定を拡大解釈して必要以上に制限しないよう適切な運用を心がけることが肝要だと書かれています。
- 無断で副業をしたら解雇されますか
-
内容によります。モデル就業規則に載っている裁判例では、結論が分かれています。
無許可で語学学校の講師などをした東京都私立大学教授事件(東京地判平20.12.5)は、副業が夜間や休日に行われていて本業への支障が認められないとして解雇無効。年に1、2回の貨物運送のアルバイトをした十和田運輸事件(東京地判平13.6.5)も、職務専念義務の違反や信頼関係の破壊とまではいえないとして解雇無効です。一方、毎日6時間のキャバレー勤務だった小川建設事件(東京地決昭57.11.19)は、余暇利用のアルバイトの域を超えるとして解雇有効とされました。
- 会社が許可してくれません
-
理由なく断り続けることはできません。マンナ運輸事件(京都地判平24.7.13)では、運送会社が準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後の2回は不許可の理由がないとされ、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容されました(慰謝料のみ)。
ただし許可制そのものが否定されたわけではありません。まず、断られた理由が4つの類型のどれに当たるのかを確認してください。
- 副業の時間も残業代の対象になりますか
-
労働時間そのものは通算されます。労働基準法38条1項が、労働時間は事業場を異にする場合においても労働時間に関する規定の適用については通算すると定めていて、昭和23年5月14日基発第769号は「事業場を異にする場合」に事業主を異にする場合も含むとしています。
通算の方法や、どちらの使用者が割増賃金を負担するかについては、「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」(令和2年9月1日付け基発0901第3号)が考え方を示しています。実際の扱いは働き方によって変わるので、届出のときに労働時間の見込みを伝えておいてください。
- 個人事業やフリーランスでも同じですか
-
モデル就業規則の解説は、副業・兼業に他の会社等に雇用される形のほか、事業主となって行うものや、請負・委託・準委任契約により行うものも含むと書いています。
ただし労働時間の通算は、雇用されている場合の話です。労働契約かどうかは実態に基づいて判断されるとも書かれているので、契約の名前だけでは決まりません。
- 競業になるかどうかは、どう判断しますか
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同じ業種というだけでは決まりません。橋元運輸事件(名古屋地判昭47.4.28)は、会社の管理職にある従業員が直接経営には関与していないものの競業他社の取締役に就任した事案で、懲戒解雇事由に該当するとして解雇有効とされました。
立場と関与の仕方が見られています。判断に迷う場合は、届出の段階で会社に確認しておくほうが安全です。
- 副業のことを相談したら不利に扱われませんか
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モデル就業規則の解説に、副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできない、と明記されています。
相談したこと自体を理由にした処分や評価の引き下げは、この扱いに反します。やり取りは記録に残る形(メールや社内システム)で行っておいてください。
- 就業規則を見せてもらえません
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労働基準法106条が、使用者に就業規則の周知を義務づけています。掲示や備え付け、書面の交付、パソコンでの閲覧といった方法で、労働者が知ることができる状態にしておく必要があります。
「見せられない」と言われる筋合いのものではありません。それでも出てこない場合は、労働基準監督署に相談できます。写しを取っておくと、あとで内容が変わったときに比べられます。
まとめ:「できる」から始まっています
整理します。
- モデル就業規則70条1項は「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」
- 禁止・制限できるのは4つの場合(労務提供上の支障・企業秘密・名誉信用・競業)
- 裁判例の分かれ目は本業への支障の蓋然性と、競業かどうか
- 労働時間は事業主が違っても通算される(労基法38条1項)
- 相談したことを理由に不利益に扱うことはできない
まず自分の就業規則の、副業の条項を読んでください。「禁止」なのか「届出制」なのか、そこが出発点です。


