先月と金額が違いました。基本給が下がり、ついていた手当が消えていました。
説明も同意もなく下げることは、原則としてできません。
この記事でわかること
- 労働条件を変える方法は2つしかないこと
- 就業規則の変更で押し通せる場合の条件
- 合理性を判断する5つの要素
- 同意書にサインを求められたとき
結論:変える方法は2つだけです
まず全体を出します。

労働契約法8条です。
労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
原則は合意です。そしてもうひとつ、就業規則を変える方法があります。ただしこちらには条件が付きます。
| 方法 | 根拠 | 必要なもの |
|---|---|---|
| ① 合意して変える | 労働契約法8条 | 労働者の合意 |
| ② 就業規則を変える | 労働契約法10条 | 周知と、変更の合理性 |
この2つ以外に、労働条件を不利益に変える道はありません。


合意なく不利益に変えることはできません
条文がはっきり書いています。

労働契約法9条です。
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
「できない」と書かれています。就業規則を書き換えただけで、当然に下げられるわけではありません。
ただし、条文にはただし書きが付いています。次条の場合は例外とする、という形です。その次条、つまり10条が例外の中身を定めています。


例外が通る条件は、2つあります
10条を読みます。

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
必要なのは2つです。変更後の就業規則を労働者に周知させることと、変更が合理的であること。
周知は労働基準法106条1項の方法です。掲示か備え付け、書面の交付、常時確認できる機器の設置。このどれもされていなければ、そもそも10条の入口に立っていません。


いくら下がるのかを、先に出します
争うか受け入れるかを決める前に、金額を出してください。
| 下がった額 | 1年 | 3年 |
|---|---|---|
| 月5,000円 | 6万円 | 18万円 |
| 月10,000円 | 12万円 | 36万円 |
| 月20,000円 | 24万円 | 72万円 |
| 月30,000円 | 36万円 | 108万円 |
賞与が月給連動なら、ここにさらに乗ります。基本給が月2万円下がって、賞与が年4か月分の会社なら、賞与だけで年8万円が別に減る計算です。
手当が消えた場合は、残業代の単価にも響きます。割増賃金は通常の賃金から計算するので、算入されていた手当がなくなると、残業1時間あたりの金額も下がります。
合理性は、5つの要素で見ます
10条が並べているものです。
| # | 要素 | 見るところ |
|---|---|---|
| ① | 労働者の受ける不利益の程度 | いくら下がるか。生活にどう響くか |
| ② | 労働条件の変更の必要性 | 会社側にどんな事情があるか |
| ③ | 変更後の内容の相当性 | 代わりの措置や経過措置があるか |
| ④ | 労働組合等との交渉の状況 | 話し合いの場が持たれたか |
| ⑤ | その他の事情 | 同業他社の水準など |
下がる金額が大きいほど、会社側に強い必要性が求められます。逆に、金額が小さく、経過措置があり、組合と話し合っている場合は、合理性が認められやすくなります。

同意書にサインを求められたら
ここが実務で問題になります。

8条の「合意」があれば、10条の合理性は要りません。だから会社は同意書を取ろうとします。
サインする前に、3つ確認してください。
1つめは、何がどう変わるのかが書いてあるか。金額、時期、対象となる手当。「就業規則の変更に同意します」だけの書面では、何に同意したのか分かりません。
2つめは、下がる金額です。月いくら、年でいくら。手当がなくなる場合は、残業代の単価にも響きます。
3つめは、断った場合にどうなるかです。会社の説明を、その場でメモに残してください。


下げられたあとに気づいた場合
順番があります。

1つめは、給与明細を並べることです。いつから、どの項目が、いくら変わったか。3か月前と比べると分かります。
2つめは、就業規則の変更があったかを聞くことです。あるなら、いつ周知されたのかも聞いてください。周知されていなければ、10条の要件を欠きます。
3つめは、同意した記録があるかです。同意書にサインしていないなら、8条の合意はありません。
聞くときは、感情ではなく場所を聞いてください。「なぜ下がったのか」ではなく「その取り扱いは、どの規程の何条に書いてありますか」です。条文が出てくれば内容を確認できますし、口頭のルールだと言われれば就業規則に書いていない可能性が出てきます。見せてもらえない場合は、周知されていない可能性が残ります。
差額を請求するかどうかは、別の判断です。労働基準法115条は賃金の請求権を5年としていますが、附則143条3項により当分の間は3年です(退職手当だけ5年)。期限があります。


よくある質問
- 会社は勝手に給料を下げられますか
-
原則としてできません。労働契約法9条が、使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより労働者の不利益に労働条件を変更することはできないと定めています。
例外は同法10条の場合だけです。変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ変更が合理的である必要があります。合理性は、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などから判断されます。
- 就業規則が変わったと言われました
-
周知されているかを確認してください。労働契約法10条は、変更後の就業規則を労働者に周知させることを要件にしています。
周知の方法は労働基準法106条1項で決まっていて、常時各作業場の見やすい場所へ掲示するか備え付けること、書面を交付すること、電子的に記録して常時確認できる機器を設置することの3つです。どれもされていない場合、10条の要件を満たしていないことになります。
- 同意書にサインしてしまいました
-
内容によります。労働契約法8条により、労使の合意があれば労働条件は変更できます。ただし何に同意したのかが特定できる必要があります。
「就業規則の変更に同意します」とだけ書かれた書面で、金額や時期が示されていない場合は、何に同意したのかが不明確です。また、不利益の内容について十分な説明がないまま署名した場合の扱いも問題になります。サインした書面の写しを手元に残して、説明を受けた日と内容をメモしてください。
- 手当がなくなりました。これも不利益変更ですか
-
なります。労働条件の不利益な変更は、基本給に限りません。手当の廃止や減額も、労働契約の内容である労働条件の変更です。
さらに手当がなくなると、割増賃金の単価にも影響します。割増賃金は通常の賃金から計算するため、算入されていた手当が消えると、残業1時間あたりの金額も下がります。基本給だけでなく、明細の全項目を前の月と比べてください。
- 「業績が悪いから仕方ない」と言われました
-
必要性は5つの要素のひとつです。労働契約法10条は、労働条件の変更の必要性のほか、労働者の受ける不利益の程度、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的かどうかを見るとしています。
必要性があれば、それだけで通るわけではありません。下がる金額が大きいほど、より強い必要性が求められます。経過措置があるか、代わりの措置があるか、話し合いの場が持たれたかも判断材料になります。
- 差額を請求できますか
-
期限内であれば請求できます。労働基準法115条は賃金の請求権を5年としていますが、附則143条3項により、当分の間は退職手当が5年、それ以外の賃金は3年です。給与の差額はこの3年のほうに入ります。
必要になるのは、変更前後の給与明細、就業規則の変更の有無と周知の状況、同意書の有無です。そのうえで、未払い賃金の請求は法律事件の代理に当たるため、扱えるのは弁護士だけになります。労働組合が運営する退職代行では扱えません。
- 辞めたほうが早いでしょうか
-
金額で比べられます。下がった額が月いくらで、年にするといくらか。そのうえで、次の職場の条件と並べてください。
争う場合は、就業規則と給与明細と同意書が必要です。これらは在職中のほうが手に入ります。辞めてからだと、就業規則を見ること自体ができなくなります。争うにしても辞めるにしても、先に書類を集める順番は変わりません。
まとめ:合意か、合理性か
整理します。
- 労働条件を変える方法は合意(労契法8条)か、就業規則の変更(10条)の2つだけ
- 合意なく就業規則で不利益に変えることはできない(9条)
- 10条の例外に必要なのは、周知と変更の合理性
- 合理性は5つの要素で見る。不利益が大きいほど強い必要性が要る
- 手当の廃止も不利益変更。割増賃金の単価にも響く
まず、給与明細を3か月ぶん並べてください。どの項目がいつからいくら変わったかが、出発点になります。


