入ってみたら、聞いていた話と違った。給料が違う、勤務地が違う、仕事の中身が違う。
この場合、2週間を待つ必要はありません。
この記事でわかること
- その日のうちに辞められる条文
- 「求人票」と「明示された労働条件」の違い
- 引っ越していた場合の帰りの旅費
- 使う前に残しておく証拠
結論:即時に解除できます
条文がそう書いています。

労働基準法15条2項です。
前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
「即時に」と書かれています。民法627条1項の2週間は、辞める意思を伝えてから雇用が終わるまでの期間を定めたものですが、この15条2項は、その2週間を待たずに契約を終わらせられる規定です。


ただし「求人票と違う」だけでは足りません
ここを取り違えると、話が通りません。

15条2項が指しているのは「前項の規定によつて明示された労働条件」です。前項、つまり15条1項の明示を受けています。
| 段階 | 誰が何をする | 根拠 |
|---|---|---|
| 募集・求人 | 求人票などで労働条件を明示する | 職業安定法5条の3第1項 |
| 条件を変える | 変更した内容を明示する | 職業安定法5条の3第3項 |
| 契約を結ぶ | 労働条件を明示する | 労働基準法15条1項 |
つまり15条2項の即時解除は、契約のときに示された条件が事実と違う場合の話です。労働条件通知書や雇用契約書に書かれた内容が、これに当たります。
求人票しか手元にない場合は、まず契約時の明示を受けたかどうかを確かめてください。


求人票から変えるなら、変えたことを言う義務があります
黙って変えるのは、それ自体が別の問題になります。
職業安定法5条の3第3項です。
求人者(中略)は、(中略)労働契約を締結しようとする場合であつて、これらの者に対して第一項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(中略)を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令で定める事項を明示しなければならない。
求人票の内容から変える場合、変更したことを明示することになっています。説明もなく数字だけ違っているなら、この義務が果たされていません。

何を明示することになっているのか
項目は決まっています。

労働基準法施行規則5条1項が、明示すべき事項を並べています。定めがない場合を除いて、次のとおりです。
| # | 明示する事項 |
|---|---|
| 一 | 労働契約の期間 |
| 一の二 | 有期契約を更新する場合の基準(通算期間や更新回数の上限を含む) |
| 一の三 | 就業の場所と従事すべき業務(変更の範囲を含む) |
| 二 | 始業・終業の時刻、所定外労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制 |
| 三 | 賃金の決定、計算、支払方法、締切り、支払時期、昇給 |
| 四 | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
このうち一号の二の「上限」と、一号の三の「変更の範囲」は、2024年4月から加わった項目です。転勤の可能性や、契約更新に上限があるかどうかが、契約の時点で分かるようになりました。
「入ってから転勤があると知った」は、いまは起きにくい形になっています。通知書に変更の範囲が書かれているはずです。


引っ越していたら、帰りの旅費は会社が負担します
これはあまり知られていません。

労働基準法15条3項です。
前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
条件は2つです。就業のために住居を変更していることと、契約解除の日から14日以内に帰郷すること。この2つを満たせば、必要な旅費は会社の負担になります。
地方から出てきて入社した人、社宅に入った人が対象です。14日という期限があるので、辞めると決めたら日付を数えてください。


使う前に、証拠を残してください
ここが実務です。

即時解除を使うには、「明示された条件」と「事実」の両方が要ります。どちらか一方だけだと、話は水掛け論で終わってしまう。
| 何 | 残し方 |
|---|---|
| 明示された条件 | 労働条件通知書、雇用契約書、求人票の写し、応募時のメール |
| 事実 | 給与明細、タイムカードの写し、シフト表、勤務地が分かるもの |
| やり取り | いつ誰に何を聞き、どう答えられたかのメモ |
紙をもらっていない場合は、まずそこを聞いてください。労働基準法15条1項は明示を義務づけているので、渡されていないこと自体が問題になります。
そして、条件が違うと気づいた時点の記録が要ります。給与明細は1回目が出るまで待つことになりますが、勤務地や仕事の中身なら初日から分かります。


自分から言い出せないとき
正直に書きます。
入って数日で「話が違うので辞めます」と言うのは、気が重いものです。相手は採用に手間をかけていて、こちらは制度の話をしなければなりません。
即時解除は通知が要るので、伝えないと成立しません。黙って行かなくなるのとは別です。
自分で言えない場合、伝えるところまでは民間企業が運営する退職代行でもできます。ただし「条件が違うので即時解除する」と主張して会社と話すなら、それは交渉です。扱えるのは労働組合が運営している場合と、弁護士が対応する場合だけになります。
未払いの賃金を請求するところまで行くなら、弁護士です。労働組合では扱えません。


よくある質問
- 求人票と給料が違いました。すぐ辞められますか
-
条件によります。労働基準法15条2項が即時解除の対象にしているのは「前項の規定によつて明示された労働条件」で、これは15条1項による契約時の明示を指します。労働条件通知書や雇用契約書に書かれた金額と、実際の支払いが違う場合が典型です。
求人票だけが手元にある場合は、まず契約時に明示を受けたかどうかを確かめてください。なお求人票の内容から変える場合は、職業安定法5条の3第3項により変更内容を明示する義務があります。説明もなく変わっているなら、そこも問題になります。
- 「即時に」とは、その日のうちということですか
-
そうです。労働基準法15条2項は「即時に労働契約を解除することができる」と定めていて、期間を置く条件は付いていません。
民法627条1項が定める2週間は、期間の定めのない雇用で辞める意思を伝えてから契約が終わるまでの期間です。15条2項はそれとは別の規定なので、2週間を待つ必要がありません。ただし解除するという通知そのものは必要です。何も言わずに行かなくなるのとは違います。
- どの程度違えば「相違」に当たりますか
-
明示された内容と事実が食い違っていることが必要です。金額、勤務地、仕事の内容、労働時間、契約期間など、施行規則5条1項が並べている項目が対象になります。
聞いていた印象と違う、思っていたより忙しい、といった主観は含まれません。書面に書かれた内容と、実際に起きていることを並べて、どこが違うかを具体的に示せるかどうかが分かれ目です。給与明細やシフト表など、事実の側を示せるものを先に集めてください。
- 労働条件通知書をもらっていません
-
まず請求してください。労働基準法15条1項は、労働契約の締結に際して労働条件を明示することを使用者に義務づけています。渡されていないこと自体が、この義務を果たしていない状態です。
施行規則5条1項が並べる項目のうち、賃金や労働時間など主要なものは書面などの方法で明示することになっています。口頭だけで済ませることはできません。請求しても出てこない場合は、労働基準監督署に相談する材料になります。
- 引っ越して入社しました。帰りの費用はどうなりますか
-
会社の負担になる場合があります。労働基準法15条3項は、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者が必要な旅費を負担しなければならないと定めています。
条件は2つで、就業のために引っ越していることと、解除の日から14日以内に帰ることです。14日という期限があるので、辞めると決めた日から数えてください。社宅に入っている場合は、退去の日程も同時に決まってきます。
- 2024年4月から何が変わりましたか
-
明示する項目が増えました。就業の場所と従事すべき業務について、変更の範囲まで明示することになっています(施行規則5条1項1号の3)。将来の配置転換でどこまで動く可能性があるかが、契約の時点で分かる形です。
有期契約については、更新する場合の基準に加えて、通算契約期間や更新回数の上限がある場合はその上限も明示事項になりました(同項1号の2)。契約が何年で終わるのかを、入る前に確認できます。
どちらも、あとから「聞いていない」と揉めやすかったところです。
- 試用期間中でも使えますか
-
使えます。試用期間中も労働契約は成立しているので、労働基準法15条の明示義務も、2項の即時解除も同じように適用されます。試用期間だから条件が違っても仕方がない、ということにはなりません。
ただし試用期間中は、会社の側から本採用を拒否される場合の扱いが通常と異なる部分があります。自分から辞めるのか、会社から言われているのかで、そのあとの失業保険の扱いも変わってきます。どちらの話なのかを分けて考えてください。
- 辞めたあとに失業保険はどうなりますか
-
離職理由の扱いで変わります。労働条件が事実と相違したことを理由に辞めた場合、雇用保険では自己都合ではなく、会社側の事情による離職として扱われることがあります。その場合は給付制限がかからず、所定給付日数も長くなります。
判断するのはハローワークなので、離職票が届いたら記載された離職理由を確認してください。事実と違うと思う場合は、異議を申し立てることができます。そのときに必要になるのが、労働条件通知書と実際の給与明細です。辞める前に手元へ残しておいてください。
まとめ:2週間を待たなくていい場合があります
整理します。
- 明示された労働条件が事実と違えば、即時に解除できる(労基法15条2項)
- 対象は契約時に明示された条件。求人票だけを根拠にはできない
- 求人票から変えるなら、変更内容を明示する義務がある(職安法5条の3第3項)
- 明示事項は施行規則5条1項。2024年4月から「変更の範囲」と「更新回数の上限」が加わった
- 引っ越していれば、解除から14日以内の帰郷なら旅費は会社の負担(労基法15条3項)
先にやることは、通知書と給与明細を並べることです。違いを具体的に示せる状態にしてから動いてください。


