辞めたいけれど、社宅に住んでいます。
仕事を失うのと、住む場所を失うのが同時に来ます。だから動けない、という人がいます。
この記事でわかること
- 退去までの時間は、会社が自由に決められるわけではないこと
- 家賃を払っているかどうかで、適用される法律が変わること
- 「退職したら即日退去」という規程が通らない場合があること
- 辞めると決める前に確認しておく4つ
結論:家賃を払っているかどうかで、法律の枠が変わります
社宅や寮の話は、契約の形が2つに分かれます。

| 対価 | 根拠になる法律 | |
|---|---|---|
| 賃貸借 | 家賃を払っている | 民法601条+借地借家法 |
| 使用貸借 | 無償で借りている | 民法593条 |
分けているのは民法です。601条は「賃料を支払うこと」を、593条は「無償で使用及び収益をして」を、それぞれ条件に書いています。
家賃を払っているなら、借地借家法の保護が働く可能性があります。ここが分かれ目です。
なぜここで差がつくのか
借地借家法は、住んでいる人を守るための法律です。
だから賃貸借に当たるなら、会社であっても出ていけと言うのに条件が要ります。逆に無償で貸しているだけなら、その保護はありません。
まず給与明細を見てください。社宅費や寮費が引かれているなら、対価を払っていることになります。

家賃を払っているなら、守りが働きます
借地借家法には、退去に関わる条文が並んでいます。

| 条 | 決めていること |
|---|---|
| 26条 | 期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新しない通知がなければ、同じ条件で更新したとみなす |
| 27条 | 貸主が解約を申し入れた場合、申入れの日から6月を経過することによって終了 |
| 28条 | 更新拒絶・解約申入れには正当の事由が必要 |
| 30条 | 借主に不利な特約は、無効 |
「退職したら即日退去」が通らない場合があります
30条を、条文のまま引きます。
この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする
賃貸借に当たるなら、社宅規程にどう書いてあっても、この条文より不利な扱いはできません。
27条は解約申入れから6ヶ月と書いています。「明日から出ていけ」は、この6ヶ月より明らかに不利です。
ただし、賃貸借に当たるかどうかは個別の判断です。払っている額が家賃と呼べるものか、福利厚生としての実費負担にすぎないかで結論が変わります。この記事で断定はできません。
「正当の事由」には中身があります
28条は、正当事由を判断する材料を条文に列挙しています。
- 賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況及び現況
- 賃貸人が明渡しの条件として財産上の給付を申し出た場合その申出
4つ目は、いわゆる立退料です。条文に書いてあります。
会社と直接やりとりしたくないなら、退職代行の選び方から見てください。

無償で借りているなら、守りは薄いです
家賃を払っていない場合、民法593条の使用貸借になります。

597条2項が、いちばん効いてきます。
当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する
「その会社で働くこと」が目的だと整理されれば、退職はその目的の終わりに当たります。
さらに598条2項では、期間も目的も定めていない場合、貸主はいつでも解除できるとされています。
無償で住んでいる場合、退職後に長く住み続けられる前提では考えないほうが安全です。
原状回復は、全部を負うわけではありません
599条3項に、こう書いてあります。
借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
ただし書きが付いています。自分のせいではない損傷まで直す義務はありません。
入居時の写真が残っているなら、探しておいてください。もし無いなら、いま撮っておいてください。退去のときに差が出ます。


辞めると決める前に確認する4つ
住む場所の話は、辞める日程そのものを決めます。先に調べてください。

| 確認すること | どこで分かるか |
|---|---|
| 家賃を払っているか | 給与明細の控除欄。社宅費・寮費の項目 |
| 退去の期限 | 社宅規程、入居時の契約書・誓約書 |
| 敷金や保証金 | 入居時の書類。給与から積み立てている場合もある |
| 住宅手当の打ち切り | 賃金規程。退職月まで出るのか、途中で止まるのか |
4つとも在職中なら調べられます。
期限が書いていないこともあります
社宅規程に退去期限が書かれていない場合、その場の口頭で言われた日が期限になってしまいがちです。
書面で確認してください。メールでも構いません。「退去はいつまでにという扱いになりますか」と1行送って、返信を残しておくだけです。

順番を間違えないでください
社宅に住んでいる人の場合、辞める話より先に、住む場所の話が来ます。

次の家の審査は、在職中のほうが通りやすいです
賃貸の入居審査では、収入と勤務先を見られます。無職の状態より、在職中のほうが説明しやすくなります。
だから順番はこうなります。
- 退職日を決める前に、次の住まいの目星をつける
- 在職中に入居審査を受ける
- そのうえで、退去期限と退職日を合わせる

辞めてから探すと、収入の証明で止まることがあります。
家賃が上がる分も、先に計算してください
社宅は相場より安いことが多いです。出た瞬間に、住居費が上がります。
- いまの社宅費(給与明細の控除額)
- 次の家の家賃+管理費
- 初期費用(敷金・礼金・仲介手数料・引越代)
この3つを出しておかないと、辞めたあとに詰まります。辞めたあとのお金は退職後にお金がない人へにまとめました。

よくある質問
- 退職したら即日退去と言われました
-
まず、家賃を払っているかを確認してください。給与明細で社宅費や寮費が引かれているなら賃貸借に当たる可能性があり、その場合は借地借家法が働きます。同法30条は、この節の規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効と定めています。27条では貸主の解約申入れから6月を経過することによって終了とされているので、即日退去はこれより不利な扱いです。ただし賃貸借に当たるかは個別判断なので、社宅規程と入居時の書類を用意したうえで相談してください。
- 家賃を払っていない寮に住んでいます
-
無償なら民法593条の使用貸借になります。597条2項では、期間を定めず使用の目的を定めた場合、借主がその目的に従い使用収益を終えることで終了するとされています。その会社で働くことが目的だと整理されれば、退職は目的の終わりに当たります。598条2項では期間も目的も定めていない場合、貸主はいつでも解除できるとされています。長く住み続けられる前提では考えないほうが安全です。
- 退去日はいつまで延ばせますか
-
契約の形と規程によります。共通して言えるのは、口頭のやりとりだけで進めないことです。退去はいつまでという扱いになりますか、と一行メールで聞いて、返信を残しておいてください。書面があると、あとで日付が動かされにくくなります。次の住まいの入居日と、退職日と、退去日の3つを並べて決めてください。
- 原状回復はどこまで負担しますか
-
民法599条3項は、使用貸借が終了したときに損傷を原状に復する義務を定めていますが、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでないというただし書きが付いています。自分のせいではない損傷まで直す義務はありません。入居時の写真があれば探してください。無いなら今のうちに部屋の状態を撮っておくと、退去時の話が早く済みます。
- 敷金は戻ってきますか
-
入居時にどういう名目で預けたかによります。給与から積み立てている形になっている会社もあるので、まず入居時の書類と給与明細を見てください。名目が書かれていないなら、退去前に書面で確認しておいてください。社内預金と同じで、自分から請求しないと動かないことがあります。
- 住宅手当はいつまで出ますか
-
賃金規程によります。退職月まで満額出る会社もあれば、退職の申し出をした時点で止まる会社もあります。ここは規程を見るしかありません。手当が止まると手取りが変わるので、退職日を決める前に確認しておいてください。
- 次の家を借りるのに、在職中のほうがいいですか
-
一般に、在職中のほうが説明しやすくなります。入居審査では収入と勤務先が見られるためです。辞めてから探すと、収入の証明のところで止まることがあります。退職日を決める前に次の住まいの目星をつけ、在職中に審査まで進めておくほうが安全です。
- 社宅を出るまで辞められませんか
-
そうとは限りません。退職と退去は別の話です。退職の意思表示と、住居の明渡しは、それぞれ別の手続きになります。ただ現実には日程が絡むので、退職日と退去日を同時に組む必要があります。順番としては、住む場所の目処が立ってから退職日を確定させるほうが安全です。
まとめ:まず給与明細を見てください
社宅や寮に住んでいると、辞めることと住む場所を失うことが同時に来ます。ただ、退去までの時間を会社が自由に決められるわけではありません。
- 家賃を払っているなら、賃貸借として借地借家法が働く可能性があります
- 同法30条は、借主に不利な特約を無効としています
- 同法27条は、貸主の解約申入れから6月を経過することによって終了としています
- 無償で借りているなら民法の使用貸借になり、守りは薄くなります
分かれ目は、対価を払っているかどうかです。だから最初に見るのは給与明細の控除欄です。
そして順番を間違えないでください。住む場所の目処が立ってから、退職日を確定させます。辞めてから探すと、入居審査で止まることがあります。

