2つの場合だけです。法令に定めがあるか、書面の労使協定があるか。
明細に見慣れない項目があるなら、まずどちらに当たるのかを確かめてください。
この記事でわかること
- 給料から引いていいのは、法令と労使協定がある場合だけであること
- 罰としての減給には、金額の上限が2つあること
- 遅刻の控除と、罰としての減給は別のものであること
- 引かれた分は3年さかのぼって請求できること
結論:全額払いが原則です
労働基準法24条1項です。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、(中略)法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
例外は2つです。法令に別段の定めがある場合と、書面による労使協定がある場合。
ここで気をつけるところがあります。条文に「本人の同意」は出てきません。口頭で「いいですよ」と言った、という説明では、条文の例外に当てはまりません。必要なのは書面の協定です。
24条に違反すると、120条1号により30万円以下の罰金とされています。訓示規定ではありません。


法令で決まっている控除は限られています
「法令に別段の定めがある場合」の中身です。

| 引かれるもの | 根拠 |
|---|---|
| 所得税 | 所得税法183条1項 |
| 健康保険料 | 健康保険法167条1項 |
| 厚生年金保険料 | 厚生年金保険法84条1項 |
| 住民税 | 地方税法321条の5第1項(特別徴収) |
健康保険法167条1項は、事業主が保険料を「報酬から控除することができる」としています。厚生年金保険法84条1項も同じ書きぶりです。
そして両方の3項に、同じ義務が置かれています。
事業主は、前二項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
引いたら知らせなければならない、ということです。明細に出さないまま引くのは、この規定に反する方向です。

制服代も寮費も、法令ではありません
制服代、寮費や社宅費、社内積立、親睦会費、購買代金、弁償金。どれも法令に定めがありません。
だから労使協定がなければ引けません。まず確認するのは、その協定があるかどうかです。労使協定は事業場ごとに結ぶもので、周知されているはずのものです。

罰としての減給には、上限が2つあります
「遅刻したら1回5,000円」という運用を見かけます。

労働基準法91条です。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
上限は2つあります。
- 1回あたり … 平均賃金の1日分の半額まで
- その月の合計 … その月の賃金総額の10分の1まで
平均賃金の出し方は12条1項にあります。算定すべき事由が発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った額です。
割るのは総日数です。出勤日数ではありません。暦の日数で割ります。そして分子は手取りではなく賃金の総額です。


月給30万円なら、1回4,891円までです
数字を入れます。月給30万円、直前3か月の暦日数が92日だったとします。
| 計算 | 結果 |
|---|---|
| 平均賃金 | 900,000円 ÷ 92日 = 9,782円 |
| 1回の上限 | 9,782円 ÷ 2 = 4,891円 |
| その月の合計の上限 | 300,000円 ÷ 10 = 30,000円 |
「1回5,000円」は、この時点で上限を超えています。
そして月に7回遅刻して35,000円引かれたなら、合計のほうも超えています。2つの上限は両方を満たす必要があります。
なお12条1項ただし書には最低保障があり、日給や時給で賃金が決まる人は、期間中に労働した日数で割った額の60パーセントを下回らないとされています。時給で働いている人は、こちらのほうが高くなることがあります。

遅刻の控除と、罰としての減給は別です
ここを混ぜると、話が噛み合わなくなります。

30分遅刻して30分ぶんの賃金が引かれるのは、減給の制裁ではありません。働いていない時間の賃金は、そもそも発生していないからです。91条の上限もかかりません。
問題になるのはこちらです。15分の遅刻で30分ぶん引かれる場合。
働いた15分ぶんの賃金まで引いていることになります。これは全額払いのほうの話です。制裁として引いているなら91条の上限がかかり、賃金を引いているなら24条の問題になります。
どちらなのかは、就業規則の書き方と実際の運用を見ないと決まりません。明細で「何という名目で、いくら引かれているか」を確かめてください。

就業規則に書いていない制裁は使えません
労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。9号にこうあります。
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
「種類及び程度」までです。「制裁を科すことがある」という一文だけでは足りません。何をしたらいくら、という程度が書かれている必要があります。
同じ89条の5号もあります。
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
制服代や食事代を負担させるなら、就業規則に書く事項だということです。89条に違反した場合も、120条1号により30万円以下の罰金とされています。

引かれた分は3年さかのぼれます
過ぎた分をあきらめる必要はありません。

労働基準法115条は、賃金の請求権の時効を5年としています。ただし附則143条3項に読み替えがあります。
第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。
当分の間は3年です。退職手当だけが5年のまま置かれています。
3年ぶんの明細を並べれば、いくら引かれてきたかは足し算で出ます。月5,000円なら3年で18万円です。まず明細を集めてください。

なお強制的な貯蓄については18条に定めがあり、1項で労働契約に附随して貯蓄の契約をさせることを禁止しています。委託を受けて管理する場合は2項により労使協定と行政官庁への届出が必要で、5項では、労働者が返還を請求したときは遅滞なく返還しなければならないとされています。


よくある質問
- 同意していれば引いてもいいのですか
-
労働基準法24条1項の例外は、法令に別段の定めがある場合と、書面による労使協定がある場合の2つです。条文に「本人の同意」という言葉は出てきません。
口頭で了承したという説明だけでは、条文の例外には当たりません。労使協定は事業場ごとに結ぶもので、周知されているはずのものです。まずその協定があるかを聞いてください。
- 法令で決まっている控除は何ですか
-
所得税、健康保険料、厚生年金保険料、住民税の4つです。所得税は所得税法183条1項、健康保険料は健康保険法167条1項、厚生年金保険料は厚生年金保険法84条1項、住民税は地方税法321条の5第1項が根拠になります。
制服代、寮費、社内積立、親睦会費、購買代金、弁償金には法令の定めがありません。これらは労使協定がなければ引けないものです。
- 遅刻1回5,000円は違法ですか
-
91条は、減給の1回の額を平均賃金の1日分の半額までとしています。月給30万円で直前3か月の暦日数が92日なら、平均賃金は9,782円、その半額は4,891円です。5,000円はこれを超えます。
上限はもうひとつあり、その月の合計は賃金総額の10分の1までです。月給30万円なら30,000円が上限になります。2つとも満たす必要があります。
- 平均賃金はどう計算しますか
-
労働基準法12条1項により、直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割ります。出勤日数ではなく暦の日数です。分子は手取りではなく賃金の総額です。
日給や時給で賃金が決まる人には最低保障があり、労働した日数で割った額の60パーセントを下回らないとされています。時給の人はこちらが高くなることがあります。
- 遅刻したぶん引かれるのは減給ですか
-
違います。働いていない時間の賃金はそもそも発生していないので、91条の上限はかかりません。30分遅刻して30分ぶん引かれるのは、この形です。
問題になるのは15分の遅刻で30分ぶん引かれる場合です。働いた15分ぶんの賃金まで引いていることになるので、24条の全額払いの話になります。明細の名目と金額を確かめてください。
- 就業規則に何も書かれていません
-
労働基準法89条9号により、制裁の定めをするなら「その種類及び程度に関する事項」を就業規則に記載しなければなりません。「制裁を科すことがある」という一文だけでは足りません。
89条は常時10人以上の労働者を使用する使用者に適用されます。違反した場合は120条1号により30万円以下の罰金とされています。まず就業規則を見せてもらってください。
- 何年前までさかのぼれますか
-
賃金の請求権の時効は、労働基準法115条では5年ですが、附則143条3項により当分の間3年とされています。退職手当だけが5年のまま残っています。
月5,000円引かれていたなら、3年で18万円です。まず明細を3年ぶん集めて、名目ごとに合計してください。金額が出れば、話す内容がはっきりします。
- 社内積立を返してもらえません
-
労働基準法18条1項は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせること、貯蓄金を管理する契約をすることを禁止しています。委託を受けて管理する場合は、2項により労使協定と行政官庁への届出が必要です。
そして5項に、労働者が返還を請求したときは遅滞なく返還しなければならないとあります。退職するかどうかとは別に、請求できるものです。
まとめ:明細を3年ぶん並べてください
整理します。
- 賃金は全額払いが原則。例外は法令と書面の労使協定の2つだけ(24条1項)
- 法令で決まっているのは所得税・健康保険料・厚生年金保険料・住民税
- 減給の制裁は、1回が平均賃金の1日分の半額、月の合計が賃金総額の10分の1まで(91条)
- 平均賃金は直前3か月の賃金総額を総日数で割る(12条1項)
- 賃金の請求権は当分の間3年(115条・附則143条3項)
やることは1つです。明細を並べて、引かれている項目の名前を書き出すこと。
法令で決まっている4つ以外の項目があれば、その根拠になる労使協定があるかを聞いてください。それが出てこないなら、話はそこから始まります。
