派遣会社です。毎日顔を合わせている現場の上司ではありません。
給料を振り込んでくるのがどちらかを考えると、はっきりします。雇っているのは派遣会社のほうです。
この記事でわかること
- 雇っているのは派遣元で、辞めると言う相手もそこであること
- 有給は派遣元、休憩は派遣先と、法律が割れていること
- 「派遣先に直接雇われるな」という約束は原則できないこと
- 派遣先の都合で切られたとき、派遣先にも義務があること
結論:雇っているのは派遣元です
労働者派遣法2条1号に、そのまま書かれています。

労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい(後略)
「自己の雇用する労働者」を「他人の指揮命令」の下で働かせる。これが派遣の定義です。
雇用関係があるのは派遣元との間だけです。派遣先とは、契約書を交わしていません。だから退職を申し入れる相手は派遣元になります。
現場の上司にいくら言っても、雇用契約は終わりません。逆に、派遣先に何も言わずに派遣元へ申し入れても、手続きとしては成り立ちます。

期間の定めがない契約なら、民法627条1項により申し入れの日から2週間で終了します。有期契約の場合は別の条文になるので、そちらは後の項で触れます。

有給は派遣元、休憩は派遣先です
ここが派遣で混乱しやすいところです。

派遣法44条は、労働基準法の条文をひとつずつ振り分けています。2項にはこう並んでいます。
労働基準法第七条、第三十二条、第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項から第三項まで、第三十三条から第三十五条まで、第三十六条第一項及び第六項、第四十条、第四十一条、第六十条から第六十三条まで、第六十四条の二、第六十四条の三、第六十六条から第六十八条まで(後略)
この列挙に入っている条は、派遣先だけが使用者として責任を負います。
| 労基法の条 | 中身 | 責任を負うのは |
|---|---|---|
| 32条 | 労働時間 | 派遣先 |
| 34条 | 休憩 | 派遣先 |
| 35条 | 休日 | 派遣先 |
| 68条 | 生理休暇 | 派遣先 |
| 39条 | 年次有給休暇 | 派遣元 |
| 24条 | 賃金の支払 | 派遣元 |
| 20条 | 解雇予告 | 派遣元 |
39条は列挙に入っていません。だから年次有給休暇は派遣元の責任です。「派遣先に断られたので有給は取れません」という説明は、権利の所在としておかしいことになります。
もっとも、実際に休む日は派遣先の就業に影響します。派遣元を通して調整されるのが普通です。それでも「誰に権利を行使するのか」は派遣元です。


賃金や解雇予告も派遣元です
44条2項の列挙に24条(賃金)も20条(解雇予告)も入っていません。給料の未払いを言う相手は派遣元です。
退職したあとの精算も同じです。労働基準法23条1項は、請求があれば7日以内に賃金を支払い、預けている金品を返還しなければならないとしています。この23条も列挙に入っていないので、請求先は派遣元になります。
現場で働いた時間を把握しているのは派遣先ですが、支払う義務を負っているのは派遣元です。タイムカードや勤怠の記録は派遣先にあり、支払いの責任は派遣元にある。この分かれ方が、話をややこしくします。
やることは決まっています。まず派遣元に、書面かメールで請求してください。口頭だと記録が残りません。派遣先に働いた時間の記録を出してもらい、それを添えて派遣元に出す。この順番です。

「派遣先に直接雇われるな」は、原則できない約束です
これを知らない人が多いところです。

派遣法33条1項です。
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(中略)に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。
労働者との間で結ぶことが禁止されています。
そして2項では、派遣元と派遣先との間で結ぶことも禁止されています。
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。
入口を両方ふさいでいます。派遣先が「うちで直接雇いたい」と言ってきたときに、派遣会社の取り決めだけを理由に断念する必要はありません。
ただし条文は「正当な理由がなく」と条件を付けています。どんな場合も無効になる、とまでは言えません。契約書にそういう条項があるなら、その理由が何かを聞いてください。

違法な派遣なら、派遣先が申し込んだものとみなされます
派遣法40条の6という規定があります。
労働者派遣の役務の提供を受ける者(中略)が次の各号のいずれかに該当する行為を行つた場合には、その時点において、(中略)その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。
対象になる行為には、期間制限の違反のほか、こういうものが挙げられています。
五 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。
いわゆる偽装請負です。
みなされた申込みは、その行為が終わった日から1年を経過する日までの間は撤回できないと2項にあります。
ただし条文にはただし書があり、該当することを知らず、知らなかったことに過失がなかったときは適用されません。「必ず直接雇用になる」ではありません。
派遣先の都合で切られたとき
契約が途中で打ち切られる形もあります。

派遣法29条の2です。
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たつては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。
派遣先が講じなければならない措置です。次の就業機会を確保するか、休業手当の費用を負担するか。
ここで押さえておくことがあります。派遣契約が切れても、派遣元との雇用契約は自動では終わりません。別の契約だからです。派遣先がいなくなったことを理由に、そのまま退職扱いにされる筋合いはありません。
解除の理由にも制限があります。27条は、国籍・信条・性別・社会的身分・労働組合の正当な行為を理由とする解除を禁止しています。


1年は努力義務、3年は義務です
雇用安定措置という仕組みがあります。ここは1年と3年で扱いが違います。

派遣法30条1項は、同一の組織単位で継続して1年以上働く見込みの人について、派遣元に4つの措置を挙げています。
- 派遣先に対し、労働契約の申込みをすることを求めること
- 派遣労働者として就業できるよう、就業の機会を確保して提供すること
- 派遣労働者以外の労働者として、期間を定めないで雇用できるよう機会を確保して提供すること
- 雇用の安定に特に資する教育訓練などを講じること
1項の文末は「講ずるように努めなければならない」です。努力義務です。
そして2項に読み替えの規定があります。
同一の組織単位の業務について継続して三年間当該労働者派遣に係る労働に従事する見込みがある特定有期雇用派遣労働者に係る前項の規定の適用については、同項中「講ずるように努めなければ」とあるのは、「講じなければ」とする。
3年見込みになると、努力義務が義務に変わります。この1文字の違いが、話の重さを変えます。

期間制限は2種類あります
似た「3年」が2つあるので、混ざりやすいところです。
| 条 | かかる相手 | 中身 |
|---|---|---|
| 35条の3 | 派遣元 | 同一の組織単位の業務に、3年を超えて同じ人を派遣してはいけない |
| 40条の2 | 派遣先 | 同一の事業所の業務で、派遣を受け入れられるのは3年まで |
事業所単位のほうは延長できます。ただし40条の2第4項により、過半数労働組合等の意見を聴かなければなりません。異議が出たときは、5項により延長の理由を説明しなければならないとされています。
なお40条の2第1項には除外があり、無期雇用の派遣労働者は期間制限の対象外です。産前産後休業や育児休業の代替として入っている場合も除かれます。

苦情は言えます。申告もできます
「派遣だから言っても仕方ない」と思われがちなところです。

派遣法40条1項は、派遣先に義務を課しています。
派遣先は、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者から当該派遣就業に関し、苦情の申出を受けたときは、当該苦情の内容を当該派遣元事業主に通知するとともに、当該派遣元事業主との密接な連携の下に、誠意をもつて、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図らなければならない。
「努めなければならない」ではありません。派遣先が受けた苦情は、派遣元へ通知したうえで処理することになっています。
法律違反があるときは、49条の3により厚生労働大臣に申告することができます。同条2項には、申告を理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止も置かれています。
待遇の説明もそうです。31条の2第4項により、求めがあったときは待遇の相違の内容と理由を説明しなければならないとされ、5項で、求めたことを理由とする不利益な取扱いが禁止されています。


よくある質問
- 辞めることは派遣先に言わなくていいですか
-
雇用契約を結んでいるのは派遣元なので、退職の申し入れは派遣元にします。派遣法2条1号でも、労働者派遣は「自己の雇用する労働者」を「他人の指揮命令」の下で働かせることと定義されていて、派遣先との間に雇用関係はありません。
ただし現場の引き継ぎは別の話です。実務では派遣元の担当者が派遣先へ伝え、就業の終了日を調整します。順番としては、まず派遣元へ伝えてください。
- 何日前に言えばいいですか
-
期間の定めがない契約なら、民法627条1項により申し入れの日から2週間で終了します。就業規則に1か月前と書かれていても、法律上の期間は2週間です。
有期契約の場合は扱いが変わります。契約期間が1年を超えるものなら労働基準法附則137条により初日から1年を経過した後はいつでも退職でき、やむを得ない事由があるときは民法628条により直ちに解除できます。
- 契約期間の途中で辞められますか
-
有期契約は原則として期間の満了までが約束ですが、条文には出口が3つあります。民法628条のやむを得ない事由、労働基準法附則137条の1年経過後、労働基準法15条2項の労働条件が事実と相違する場合の即時解除です。
どれに当たるかは契約書を見ないと分かりません。契約期間が何年何か月で始まっているか、書面を手元に置いてから判断してください。
- 有給は派遣先に申請するのですか
-
権利としては派遣元に対するものです。派遣法44条2項は労働基準法の条文を派遣先へ振り分けていますが、年次有給休暇の39条はその列挙に入っていません。賃金の24条も解雇予告の20条も同じで、派遣元に残ります。
一方、労働時間の32条、休憩の34条、休日の35条は派遣先です。実際に休む日は派遣先の就業に影響するので派遣元が調整しますが、断る権限が派遣先にあるわけではありません。
- 派遣先に直接雇ってもらうのは契約違反ですか
-
派遣法33条1項は、派遣元が労働者との間で、正当な理由がなく派遣先に雇われることを禁じる契約を結ぶことを禁止しています。2項では、派遣元が派遣先との間で同じ内容を結ぶことも禁止されています。
条文は「正当な理由がなく」と条件を付けているので、どんな場合も無効とまでは言えません。契約書にその条項があるなら、理由として何が書かれているかを確認してください。
- 派遣先の都合で契約を切られました
-
派遣法29条の2により、派遣先は自分の都合で契約を解除するとき、新たな就業機会の確保か、休業手当等の支払に要する費用の負担などの措置を講じなければならないとされています。
そして派遣契約と雇用契約は別です。派遣先がいなくなっても、派遣元との雇用契約は自動では終わりません。次の派遣先が決まるまでの扱いを、派遣元に確認してください。
- 3年たったらどうなりますか
-
同一の組織単位で3年を超えて同じ人を派遣することは、派遣法35条の3で禁止されています。同時に30条2項により、3年間従事する見込みがある人については、派遣元の雇用安定措置が努力義務から義務に変わります。
措置には、派遣先へ直接雇用を求めること、別の就業機会を提供すること、期間を定めないで雇用することなどが挙げられています。1年以上の見込みの段階では努力義務です。この違いを押さえてください。
- 派遣元に言っても取り合ってもらえません
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派遣法49条の3第1項により、派遣元または派遣先に法律違反の事実があるときは、厚生労働大臣に申告することができます。同条2項では、申告したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いが禁止されています。
派遣先に対しても40条1項があり、苦情の申出を受けたときは派遣元に通知して、誠意をもって遅滞なく処理を図らなければならないとされています。努力義務ではありません。
まとめ:まず派遣元に、次に契約書を
整理します。
- 雇っているのは派遣元。辞めると言う相手もそこ(派遣法2条1号)
- 有給・賃金・解雇予告は派遣元、労働時間・休憩・休日は派遣先(44条2項)
- 「直接雇われるな」という約束は、正当な理由がなければ結べない(33条)
- 派遣先都合の解除では、派遣先に措置を講じる義務がある(29条の2)
- 3年見込みで、雇用安定措置は努力義務から義務へ変わる(30条2項)
やることは2つです。派遣元の担当者に伝えること、そして契約書で期間の定めがあるかを確かめること。
期間の定めがなければ2週間で終わります。あるなら、その満了日と、途中で辞められる条文に当てはまるかを見てください。
