解雇ではありません。だから、こちらが承諾しなければ何も起きません。
「辞めてくれ」と言われた時点で、もう決まったと思ってしまう人がいます。決まっていません。
この記事でわかること
- 退職勧奨は解雇ではなく、合意しなければ成立しないこと
- 断ってよいと、厚生労働省の裁判例解説に書かれていること
- 応じる場合は会社都合になり、失業保険の日数が変わること
- 記録の残し方が、断るときも応じるときも効いてくること
結論:解雇と退職勧奨は、別のものです
同じ「辞める話」でも、法律上の性質がまったく違います。

解雇は、会社の一方的な意思表示です。だから労働契約法16条がかかり、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされます。
退職勧奨は、これに当たりません。「辞めませんか」という申し出だからです。
契約を終わらせる合意の、申込みにすぎません。申込みは、承諾されてはじめて成立します。
だから「辞めてくれ」と言われただけの段階では、雇用契約は1ミリも動いていません。動くのは、こちらが「はい」と言ったときです。


断れます。厚生労働省もそう書いています
「拒否してもいいのか」で迷う人が多いところです。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」に、下関商業高校事件(最高裁第一小法廷 昭和55年7月10日)の解説があります。
勧奨される者は理由の如何を問わず、自由な意思で勧奨による退職を拒否できます
「理由の如何を問わず」です。理由を説明する義務もありません。
そして限度もあります。同じページの続きです。
勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害するような言動による勧奨行為は、不法行為を構成する場合があります。
この事件では、多数回・長期にわたる執拗な勧奨があり、「退職するまで続く」という述べ方で心理的圧迫が加えられていました。それが「許容される限界を越えている」と判断されています。
ただし「1回言われたら違法」ではありません。回数、期間、言い方を合わせて見られます。

記録に残すのは、この5つです
回数と期間が判断材料になるということは、それを示せる人が強いということです。

いつ、誰から、何分、どこで、何と言われたか。この5つを、その日のうちに書いてください。
書いた日付が残る形にするのが大事です。自分宛てに送ったメール、更新日時が残るメモアプリ、日付を書いた手帳。あとから足したものと区別がつくようにします。
内容は要約でなく、言われた言葉をそのまま残してください。「暗に辞めろと言われた」ではなく「あなたの席は来月にはない、と言われた」と書きます。判断されるのは言い方だからです。
面談の呼び出しメールや、渡された書面も1か所にまとめてください。呼び出しの日付が並ぶだけで、回数と期間が示せます。
断ったあとに、解雇と言われたら
勧奨を断った直後に、解雇を通告してくる会社もあります。
これは別の話になります。解雇には労働契約法16条がかかり、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効とされます。勧奨を断ったこと自体は、合理的な理由として通りにくい方向です。
解雇の場合は予告や手当の決まりも別にあるので、通告されたらその場では受け取るだけにして、書面の内容を確かめてください。

応じるなら、会社都合です
断るだけが答えではありません。条件しだいで、応じたほうがいい場合もあります。

ハローワークの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」に、そのまま挙がっています。
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
退職勧奨に応じた離職は、特定受給資格者です。いわゆる会社都合の扱いになります。
(11)というのは、「「解雇」等により離職した者」というグループの11番目です。同じグループには、こういう号もあります。
| 号 | 中身 |
|---|---|
| (1) | 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者 |
| (3) | 賃金(退職手当を除く。)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったことにより離職した者 |
| (10) | 上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者(後略) |

注意が1つあります。カッコ書きのとおり、もともとある早期退職優遇制度に自分から応募した場合は、これに当たりません。勧奨されたのか、制度に応募したのかで扱いが変わります。
日数がここまで違います
特定受給資格者の所定給付日数は、雇用保険法23条1項に定められています。
| 年齢 \ 算定基礎期間 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
|---|---|---|---|---|
| 30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 35歳以上45歳未満 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
| 45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
| 60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
45歳以上60歳未満で勤続20年以上なら、330日です。
30歳未満は別扱いで、23条1項5号により算定基礎期間5年以上10年未満が120日、10年以上が180日とされています。5年未満の人はこの表の対象外です。

サインする前に、確認する3つ
退職合意書を出されたら、その場で書かないでください。

① 離職理由が何と書かれるか。離職票を作るのは会社です。会社都合で処理されるのか、自己都合と書かれるのかを、書面に残る形で確認してください。
② 退職日はいつか。社会保険料が1か月分変わる境目があります。月末なのか、その前日なのかで扱いが違います。
③ 上乗せの金額があるか。退職金とは別に解決金が出る場合があります。金額が空欄のまま署名しないでください。

その場で決めなくて構いません。「持ち帰って確認します」と言えば済みます。急がせてくるほど、確認する理由があります。


よくある質問
- 退職勧奨は断れますか
-
断れます。厚生労働省の「確かめよう労働条件」にある下関商業高校事件(最高裁 昭和55年7月10日)の解説に、勧奨される者は理由の如何を問わず自由な意思で拒否できる、と書かれています。
退職勧奨は解雇ではなく、契約を終わらせる合意の申し出です。承諾しなければ成立しません。理由を説明する義務もありません。
- 何度も呼び出されています
-
同じ裁判例の解説に、勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、名誉感情を害するような言動による勧奨行為は不法行為を構成する場合がある、とされています。
この事件では多数回・長期にわたる執拗な勧奨と、退職するまで続くという述べ方が許容される限界を越えていると判断されました。いつ、誰から、何分、どこで、何と言われたかを、その日のうちに記録してください。
- 応じたら自己都合になりますか
-
なりません。ハローワークの特定受給資格者の範囲(11)に、事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者、と挙がっています。会社都合の扱いです。
ただし但し書きがあり、従来から恒常的に設けられている早期退職優遇制度等に応募して離職した場合は該当しません。勧奨されたのか、制度に応募したのかで変わります。
- 失業保険はどれくらい違いますか
-
特定受給資格者の所定給付日数は雇用保険法23条1項にあり、45歳以上60歳未満で算定基礎期間20年以上なら330日です。35歳以上45歳未満で10年以上20年未満なら240日になります。
30歳未満は5号で別に定められ、算定基礎期間5年以上10年未満が120日、10年以上が180日です。5年未満の人はこの表の対象になりません。
- 離職票に自己都合と書かれました
-
離職票を作るのは会社なので、実態と違う記載になることがあります。ハローワークで異議を申し立てることができます。
そのときに効くのが記録です。退職勧奨を受けた日時、相手、内容が残っていれば、判断の材料になります。面談の呼び出しメールや、退職合意書の文面も取っておいてください。
- 断ったら解雇されますか
-
解雇には労働契約法16条がかかります。客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされます。勧奨を断ったこと自体は、合理的な理由として通りにくい方向です。
解雇は退職勧奨とは別の手続きです。予告や手当の扱いも別に決まっているので、通告されたらその場では受け取るだけにして、書面に何と書かれているかを確かめてください。
- その場でサインを求められました
-
その場で書く必要はありません。持ち帰って確認する、と言って構いません。確認するのは、離職理由が何と書かれるか、退職日はいつか、上乗せの金額があるかの3つです。
特に離職理由は、失業保険の給付日数と給付制限に直結します。金額が空欄のまま署名しないでください。急がせてくるほど、確認する理由があります。
- 部署をなくすと言われました
-
事業所の廃止に伴う離職も、特定受給資格者の範囲に挙がっています(「「倒産」等により離職した者」の(3))。賃金(退職手当を除く)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかった場合や、上司・同僚等からの故意の排斥や著しい冷遇、嫌がらせを受けた場合も同じです。
自分がどの号に当たるかを、ハローワークの範囲の一覧で確かめてください。当たる号があれば、離職理由の主張がしやすくなります。
まとめ:承諾しなければ、何も起きません
整理します。
- 退職勧奨は解雇ではない。合意の申し出なので、承諾しなければ成立しない
- 理由の如何を問わず拒否できる(厚生労働省の裁判例解説)
- 限度を超えた勧奨は不法行為を構成する場合がある(下関商業高校事件)
- 応じた場合は特定受給資格者。45歳以上60歳未満・20年以上なら330日
- 記録はいつ・誰から・何分・どこで・何と言われたかの5つ
やることは2つです。その場で答えないこと、そして記録を残すこと。
いつ、誰から、何分、何と言われたか。この5つが、断るときも、応じるときも材料になります。
