同業に転職するな、と言われました。
退職の手続きで、そういう誓約書を出されることがあります。
この記事でわかること
- サインしても、そのまま全部が有効にはならないこと
- 判例が見ている6つの項目
- 「同業への転職を一切禁止」がいちばん通りにくいこと
- 期間は1年以内が肯定的に見られていること
結論:6つの項目で判断されます
まず前提から書きます。法律に「退職後の競業避止義務」という一般的な規定はありません。誓約書か就業規則という、契約によるものです。

そして日本国憲法22条1項があります。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
だから退職後の競業避止は、制限的に扱われています。
経済産業省が、競業避止義務契約の有効性についてという資料を出しています。関連する50以上の判例をもとに、有識者の委員会がまとめたものです。そこにこう書かれています。
判例上、競業避止義務契約の有効性を判断する際にポイントとなるのは、①守るべき企業の利益があるかどうか、①を踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、②従業員の地位、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間や⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか、⑥代償措置が講じられているか、といった項目である。
サインした事実だけで決まるものではありません。

いちばん効くのは「禁止の範囲」です
6項目のうち、自分の誓約書を見てすぐ確かめられるのがここです。

同じ資料に、こうあります。
業界事情にもよるが、競業企業への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多い。
業務内容や職種等について限定をした規定については、肯定的に捉えられている。
つまり、こういう差になります。
| 誓約書の書き方 | 判例の扱い |
|---|---|
| 同業他社への転職を一切禁止 | 合理性が認められないことが多い |
| 在職中に担当した顧客への営業活動を禁止 | 肯定的に捉えられることが多い |
| 特定の職種・業務に限って禁止 | 同上 |
「うちの業界には行くな」と書いてあるだけの誓約書は、いちばん通りにくい形です。

期間は1年以内が肯定的に見られています
次に確かめるのが年数です。

資料にはこう書かれています。
概して1年以内の期間については肯定的に捉えられているが、特に近時の事案においては、2年の競業避止義務期間については、否定的な判断がなされる例が見られる
5年という期間について「長期」と判断された例もあります(東京地判 平成24年1月23日)。
ただし年数だけで決まるものではありません。ノウハウの独自性が高いとして、3年でも認められた事案があります(東京地判 平成22年10月27日)。
「2年だから無効」とは言えません。他の項目と合わせて判断されます。

役職ではなく、何に触れていたかで見られます
「自分は管理職じゃないから関係ない」と思う方がいますが、そう単純ではありません。

資料にはこうあります。
形式的に特定の地位にあることをもって競業避止義務の有効性が認められるというよりも、企業が守るべき利益を保護するために、競業避止義務を課すことが必要な従業員であったかどうかが判断されている
実際の判例を見ると、方向が両方あります。
- 従業員6,000人の日本支店で20人しかいない執行役員でも、「保険商品の営業事業はそもそも透明性が高く秘密性に乏しい」として否定された(東京地判 平成24年1月13日)
- 週1回のアルバイトでも、指導方法のノウハウを伝授されていたとして認められた(東京地判 平成22年10月27日)
肩書きではなく、会社の秘密に触れる立場だったかどうかです。

地域の限定は、無くても決め手にはなりません
6項目のうち、③の地域的限定だけは扱いが少し違います。
資料には、判例は地理的な制限がないことだけを理由に有効性を否定しない傾向がある、と書かれています。
実際、全国に店舗を展開する会社の事案で「地理的な制限がないが、(原告が)全国的に家電量販店チェーンを展開する会社であることからすると、禁止範囲が過度に広範であるということもない」と判断された例があります。
「地域が書いていないから無効」とは言えません。ただし禁止の範囲が広いことと重なると、否定的に評価される材料にはなります。
代償措置が何もないと、否定されやすくなります
見落とされやすい項目です。

資料にはこう書かれています。
代償措置と呼べるものが何も無い場合には、有効性を否定されることが多い。
代償措置とは、競業を制限されることへの見返りです。ただし「競業避止手当」のような形で明確に決まっている例は少ないとされていて、賃金が高額であれば代償措置があったとみなした判例もあります。
一方で、高額な報酬を受け取っていた執行役員について、競業避止義務が課せられた前後で賃金の差がないことから代償措置とは言えないと判断した例もあります。
自分が何かを受け取っているか。ここは誓約書と給与明細を並べれば確かめられます。

サインを求められたら
最後に、実際の場面での話です。
- コピーを取ってください。あとで6項目に当てはめるには、書いてある内容が要ります
- その場で結論を出さなくて構いません。持ち帰って読む、と言えます
- 就業規則にも定めがある場合があります。サインを断っても、そちらが残ることがあります
そして転職先を決めるとき、この誓約書の存在は伝えておいたほうが安全です。あとから発覚するほうが、こじれます。


よくある質問
- 誓約書にサインしたら同業に転職できませんか
-
サインした事実だけで決まるものではありません。経済産業省が50以上の判例をもとにまとめた資料では、6つの項目で有効性が判断されるとされています。
守るべき企業の利益、従業員の地位、地域的な限定、存続期間、禁止される競業行為の範囲、代償措置の6つです。とくに一般的・抽象的に競業企業への転職を禁止するだけの規定は、合理性が認められないことが多いとされています。
- 「同業他社への転職を一切禁止」と書かれています
-
その書き方がいちばん通りにくい形です。資料には、競業企業への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多い、と書かれています。
逆に、在職中に担当した顧客への営業活動を禁止する、特定の職種に限って禁止する、といった限定がある規定は肯定的に捉えられています。まず自分の誓約書がどちらの書き方かを確かめてください。
- 期間が2年になっています
-
近年の事案では、2年の競業避止義務期間について否定的な判断がなされる例が見られる、とされています。1年以内は肯定的に捉えられている例が多い、とも書かれています。
ただし年数だけで機械的に決まるわけではありません。ノウハウの独自性が高いとして3年でも認められた事案がありますし、他の項目との総合判断になります。「2年だから無効」とは言えません。
- 一般社員でも対象になりますか
-
なります。判例では、週1回のアルバイトについて、指導方法のノウハウを伝授されていたことを理由に競業避止義務が認められた例があります。
逆に、従業員6,000人の日本支店で20人しかいない執行役員について、扱っていた情報の秘密性が乏しいとして否定された例もあります。形式的な役職ではなく、会社の秘密に触れる立場だったかで判断されています。
- 代償措置とは何ですか
-
競業を制限されることへの見返りです。資料では、代償措置と呼べるものが何も無い場合には有効性を否定されることが多い、とされています。
ただし「競業避止手当」のように明確に定義されている例は少なく、賃金が高額であれば代償措置があったとみなした判例もあります。一方で、高額報酬でも競業避止義務が課される前後で賃金に差がないことから否定された例もあります。誓約書と給与明細を並べて確かめてください。
- サインを断ってもいいですか
-
退職時の誓約書なら、断ること自体はできます。ただし就業規則に競業避止の定めがある場合、そちらは残ります。
まず就業規則を確認してください。そのうえで、サインを求められた誓約書は、コピーを取っておいてください。あとで6つの項目に当てはめて考えるには、書いてある内容が必要になります。その場で結論を出す必要はありません。
- 転職先に伝えるべきですか
-
伝えておくほうが安全です。あとから発覚するほうがこじれます。転職先が同業なら、どこまでの業務なら問題がないかを調整できる場合もあります。
誓約書のコピーを見せて、禁止されている範囲を具体的に共有してください。「同業だから全部だめ」ではなく、担当する顧客や職種の話になることが多いところです。
- 会社から警告書が届きました
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まず誓約書か就業規則の該当箇所を確認して、6つの項目に照らしてください。守るべき企業の利益、地位、地域、期間、禁止の範囲、代償措置です。
そのうえで、自分で判断がつかない場合は労働相談の窓口で聞くことができます。金額が示されている場合は、その書面を持っていってください。競業避止の問題は個別性が強いので、書面を見ないと判断ができません。
まとめ:まず誓約書の書き方を見てください
整理します。
- 退職後の競業避止義務は法律の一般規定ではなく、契約による
- 憲法22条1項の職業選択の自由があるので、制限的に扱われる
- 判例は6項目で判断している(利益・地位・地域・期間・禁止の範囲・代償措置)
- 一般的・抽象的に転職を禁止するだけの規定は、合理性が認められないことが多い
「同業はだめ」と書いてあるだけなら、そこがいちばん弱い部分です。
コピーを取って、6つの項目に自分の状況を当てはめてください。サインした事実だけで、次の仕事が決まるわけではありません。

