会社には、法律で決められた義務があります。それでも、知ったあとに何もしなかった会社が42.5%ありました。
厚生労働省の指針と通達、それに8,000人の調査を読んでいます。
この記事でわかること
- 「これはセクハラか」を決める基準が通達に書かれていること
- 会社に義務としてさせられることと、その根拠
- 会社が動かないときに使える3段階の手続き
- 辞めるとき、離職理由がどう扱われるか
結論:義務はあります。動かないなら、辞め方のほうを整えます
先に立ち位置を書きます。

| 何 | 中身 |
|---|---|
| 会社の義務 | 男女雇用機会均等法11条1項。相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置 |
| 措置の中身 | 指針に10項目。企業の規模を問わず、必ず講じるもの |
| 相談したら | 11条2項。それを理由とする解雇その他不利益な取扱いは禁止 |
| 会社が動かないとき | 労働局の助言・指導・勧告(17条)→調停(18条)→公表(30条) |
| 辞めた場合 | 会社が把握しながら措置を講じなかったなら、特定受給資格者にあたりうる |
義務があることと、会社が実際に動くことは別です。この記事はその落差を数字で見たうえで、辞めるほうへ舵を切る場合に何を確かめるかまで書きます。


「対価型」と「環境型」の2つがあります
指針に典型例が並んでいます。
厚生労働省の指針(平成18年厚生労働省告示第615号)は、セクハラを2つに分けています。対価型は、性的な言動への対応によって解雇・降格・減給などの不利益を受けることです。典型例はこう書かれています。
イ 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。
ロ 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。
ハ 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。
環境型は、就業環境が不快になり、看過できない程度の支障が生じることです。
イ 事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
ロ 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
ハ 労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。
読むと分かりますが、どちらも「不利益」か「就業環境」のどちらかに結び付いています。言動そのものの下品さで決まる作りにはなっていません。
「職場」も「行為者」も、思っているより広いです
指針の定義部分に、範囲が書いてあります。
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当する。
行為者についても、上司や同僚に限られません。
当該言動を行う者には、労働者を雇用する事業主(中略)、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等もなり得る。
そして、性別で線を引く作りにもなっていません。
なお、職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれるものである。また、被害を受けた者の性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである。

「労働者」の範囲も同じで、正社員だけではありません。パートタイム労働者、契約社員を含む雇用する労働者の全てが対象です。派遣で働いている場合は、労働者派遣法47条の2により派遣先も事業主とみなされるので、派遣先にも措置義務があります。

判断の基準は、通達に書かれています
ここがいちばん迷うところです。

厚生労働省の局長通達(雇均発0424第1号・令和8年4月24日)に、判断の基準が書かれています。
具体的には、セクシュアルハラスメントが、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であること。ただし、労働者が明確に意に反することを示しているにもかかわらず、さらに行われる性的言動は職場におけるセクシュアルハラスメントと解され得るものであること。
前半は「自分だけが気にしすぎているのでは」という迷いに答えるところです。通達は、この判断について「労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となることを考えると一定の客観性が必要である」としたうえで、その客観性の物差しを平均的な労働者の感じ方に置いています。本人の受け止めを外して考える、という意味ではありません。
そして後半が効きます。嫌だと明確に伝えたのに続いた場合は、それだけでセクハラと解されうると、行政の通達が書いています。平均かどうかの議論に入る前の話です。

もう1つ、同じ通達に書かれていることがあります。
採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定者についても、法第11条第1項の雇用管理上の措置や同条第2項の相談等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止の対象となるものであり、採用内定取消しは不利益な取扱いに含まれるものであること。
内定者も対象です。入社前でも、会社の措置義務は働きます。

会社が動かなかった、という数字があります
ここが現実です。

厚生労働省の委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(令和6年3月)では、20〜64歳の労働者8,000人に聞いています。過去3年間にセクハラを受けた割合は全体で6.3%、女性8.9%、男性3.9%でした。
受けた内容は、性的な冗談やからかいが49.7%、不必要な身体への接触が26.2%です。
そのうえで、この4つが並びます。
| 何 | 割合 |
|---|---|
| 受けた後「何もしなかった」 | 51.7% |
| 勤務先が「認識していた」 | 23.9% |
| 知った後の勤務先の対応が「特に何もしなかった」 | 42.5% |
| 勤務先の認定が「あったともなかったとも判断せずあいまいなままだった」 | 47.5% |
半分が何もしないまま終わり、会社が知ったケースでも4割が何もしていません。認定にいたっては、半分近くが白黒つかないまま流れています。
企業側の調査(回答7,780社)では、セクハラの予防・解決の取組を実施している企業は92.7%でした。6種類のハラスメントの中でいちばん高い数字です。取組はあります。それでも、相談が来ると動きません。この落差が、辞める判断を難しくしています。


会社に何をさせられるのか
義務の中身を確かめます。

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
「講じなければならない」と書かれています。努力義務ではありません。そして先ほどの通達に、この措置の重さが書かれています。
セクハラ防止指針4は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として10項目挙げており、これらについては、企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならないものであること。
小さい会社だから、は理由になりません。規模を問わず10項目です。
そして11条2項は、相談したこと自体を守っています。
事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
相談したら評価を下げられた場合、担当を外された場合、契約を更新されなかった場合。これは別の違反として積み上がります。

会社が動かないときは、労働局に3段階あります
社内で終わらない場合の話です。

均等法17条1項に、こう書かれています。
都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
「双方又は一方」です。会社の同意はいりません。働いている側だけで求められます。
それでも解決しない場合は18条1項の調停です。紛争調整委員会が入ります。こちらも「双方又は一方から」申請できます。
さらに勧告に従わない会社には、30条があります。
厚生労働大臣は、(中略)第十一条第一項及び第二項(中略)の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
社名が公表されうる、というところまで法律に書かれています。
なお、17条2項と18条2項は11条2項を準用しています。つまり労働局に助けを求めたことを理由とする不利益な取扱いも禁止です。相談したら報復される、という心配に対して、法律の側は先回りしています。

慰謝料や損害賠償までとなると、これは法律事件の扱いになるので弁護士の領域です。労働組合が運営する退職代行では扱えません。

2026年10月1日から、面接や説明会も対象になります
改正法の話です。令和7年改正法により、求職者に対するセクハラも事業主の措置義務になります。指針は令和8年厚生労働省告示第52号です。
対象になる場面が、指針に列挙されています。
・企業の採用面接への参加 ・企業の就職説明会への参加 ・企業の雇用する労働者への訪問 ・インターンシップへの参加 ・教育実習、看護実習等の実習の受講
なお、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれる。
同じ2026年10月1日には、顧客等からの言動についての義務も始まります。こちらは対象が別なので、分けて考えてください。

辞めると決めたら、確かめることが2つあります
順番が大事なところです。

1つめは離職理由です。ハローワークの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」には、こう書かれています。
(前略)事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者(後略)
会社都合と同じ扱いになりうる、ということです。給付の開始時期と日数が変わります。ただし条件があります。会社が「把握していながら」措置を講じなかった場合です。だから、伝えた事実が残っているかどうかで結論が変わります。
2つめが、その記録です。セクハラの場合、残すのはこの5つです。
| # | 残すもの | なぜ |
|---|---|---|
| ① | いつ・どこで | 「職場」に当たるかの判断材料になる |
| ② | 誰が・何をしたか | 対価型か環境型かの切り分けに要る |
| ③ | 嫌だと伝えた事実 | 通達の「明確に意に反することを示した」に当たる |
| ④ | 誰に相談したか・いつ | 会社が「把握していた」の証拠になる |
| ⑤ | その後に起きたこと | 11条2項の不利益取扱いにあたるかの材料 |
④がいちばん抜けます。口頭だけで伝えていると、会社は「聞いていない」と言えてしまいます。メール、チャット、社内フォームなど、日付が残る形が要ります。


交渉が要るなら、選ぶ相手が変わります
最後に、頼む先の話です。
退職代行は運営元で扱える範囲が変わります。民間企業が運営している場合、会社と条件を交渉すると弁護士法72条に触れるおそれがあるため、辞めると伝えるところまでです。退職日や有給の交渉まで扱えるのは、労働組合が運営している場合と、弁護士が対応する場合だけです。
| 運営元 | できること | セクハラの場面で |
|---|---|---|
| 民間企業型 | 辞めると伝えるところまで | 条件の調整はできない |
| 労働組合型 | 退職日・有給・最終給与の交渉まで | 顔を合わせずに条件を整えられる |
| 弁護士型 | 請求・訴訟まで | 慰謝料まで求めるならここ |
セクハラで辞める場合、残りの有給を使い切って出社しないまま終える形が現実的な落とし所になることが多いところです。有給の日を指定するのは労働基準法39条により労働者側なので、交渉できる相手がいれば通せます。


よくある質問
- これはセクハラに当たりますか
-
判断の枠は2つです。性的な言動への対応で解雇・降格・減給などの不利益を受けたなら対価型、就業環境が不快になり看過できない程度の支障が生じているなら環境型です。指針にはヌードポスターの掲示や、取引先での噂の流布も典型例として挙げられています。
そして通達には、明確に意に反することを示したにもかかわらず、さらに行われた性的な言動はセクハラと解されうる、と書かれています。すでに嫌だと伝えているなら、判断に迷う段階を越えています。
- 相談したら立場が悪くなりませんか
-
均等法11条2項が、相談したことや事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。さらに17条2項と18条2項が同じ規定を準用しているので、労働局に助けを求めたことを理由とする不利益取扱いも禁止です。
ただし現実として、実態調査では会社が知った後に「特に何もしなかった」が42.5%でした。禁止されていることと、起きないことは違います。相談した日付が残る形で伝えておくと、後から効きます。
- 会社に相談窓口がありません
-
窓口の設置は義務です。指針の10項目のひとつで、通達には「企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならない」と書かれています。窓口がないこと自体が、措置義務を果たしていない状態です。
社内にないなら、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。均等法17条1項により、当事者の一方から求めれば助言・指導・勧告の対象になります。会社の同意は必要ありません。
- 男性でも対象になりますか
-
なります。指針には、同性に対するものも含まれること、被害を受けた者の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず対象になることが明記されています。
実態調査では、過去3年間にセクハラを受けた男性は3.9%でした。女性の8.9%より低いものの、8,000人規模の調査で確認されている数字です。受けた内容の内訳では、性的な言動に対して拒否・抵抗したことによる不利益な取扱いや、性的な内容の情報の流布は、男性のほうが割合が高いと報告されています。
- 取引先や客からのセクハラはどうなりますか
-
指針は、行為者に取引先等の他の事業主やその雇用する労働者、顧客、患者やその家族、学校における生徒まで含めています。自社の社員でなくても対象です。
また「職場」の範囲も、取引先の事務所、打合せの飲食店、顧客の自宅までが含まれると書かれています。社外で起きたから対象外、にはなりません。業務を遂行する場所かどうかで決まります。
なお、均等法11条3項は、他の事業主から措置の実施に必要な協力を求められた場合にこれに応ずるよう努めなければならない、としています。ここは義務ではなく努力義務です。相手先が動かないこともあるので、まず自社の窓口へ伝える順番になります。
- 慰謝料は請求できますか
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請求そのものは可能です。ただし、これは法律事件の代理にあたるため、扱えるのは弁護士だけです。労働組合が運営する退職代行では扱えません。ここは弁護士法72条の線引きなので、料金の安さでは動かせないところです。
金額や見通しは、行為の内容、頻度、期間、会社の対応、診断の有無で変わります。請求まで考えているなら、辞める前に弁護士へ相談してください。会社を離れると、社内のメール、チャット、勤務表、座席表といった資料に触れられなくなります。記事の本文で挙げた5項目のうち、③の「嫌だと伝えた事実」と④の「誰にいつ相談したか」は、在職中でないと集めにくいところです。
- 辞めたら離職理由はどうなりますか
-
ハローワークの「特定受給資格者の範囲」には、事業主がセクハラの事実を把握していながら雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者、と書かれています。この枠に入れば、自己都合ではなく会社都合と同じ扱いです。
変わるのは2つです。1つは待つ期間で、雇用保険法33条1項は自己都合の場合に1か月以上3か月以内の間で公共職業安定所長が定める期間は基本手当を支給しないとしていますが、特定受給資格者にはこの給付制限がかかりません。もう1つは日数です。同法22条1項では算定基礎期間10年未満なら90日ですが、特定受給資格者は23条で年齢と期間ごとに別に決まり、たとえば30歳以上35歳未満で算定基礎期間5年以上10年未満なら180日です。
判断するのはハローワークです。会社が離職票にどう書くかで自動的に決まるわけではありません。異なる場合は、相談したときの記録を持って申し出ることになります。
- 有給を全部使って辞められますか
-
労働基準法39条により、有給を取る日を指定するのは労働者側です。会社にあるのは、事業の正常な運営を妨げる場合に他の日へ変えてもらう時季変更権だけです。退職日までに残日数がある場合、変更してもらう先の日がないので、実際には断りにくい形になります。
自分で言い出せない場合は、交渉ができる相手に任せる方法があります。労働組合が運営する退職代行と、弁護士が対応する退職代行なら、有給の交渉まで扱えます。
まとめ:先に、伝えた記録を残します
整理します。
- 会社には均等法11条1項の措置義務がある。規模を問わず10項目
- 判断は「平均的な労働者の感じ方」。明確に嫌だと伝えたのに続いたなら、それで足りると通達にある
- 相談したことを理由とする不利益取扱いは11条2項で禁止。労働局に求めた場合も同じ
- 会社が動かないなら、労働局の助言・指導・勧告、調停、公表の3段階がある
- 辞める場合、会社が把握しながら措置を講じなかったなら、離職理由が会社都合と同じ扱いになりうる
共通しているのは、「伝えた事実が残っているか」で結論が変わることです。相談する、辞める、離職理由を争う。どれを選ぶ場合でも、④の記録が土台になります。
そのうえで、条件の調整を自分でやりきれないなら、任せられる相手がいます。

