有給消化中は、まだ前の会社に在籍しています。だから次の会社で働き始めると、2社に同時に雇われている状態になります。
これを禁じる法律はありません。ただし、止めているものが3つあります。
この記事でわかること
- 法律ではなく、何が止めているのか
- 労働時間の通算がどこまで効くか
- 社会保険と雇用保険で起きること
- 前の会社に伝わる経路
結論:止めているのは3つです
先に全体を出します。

| 何 | 中身 | 効き方 |
|---|---|---|
| 就業規則の兼業規定 | 在籍中なので、前の会社の規則がまだ効く | 会社ごとに違う |
| 健康保険・厚生年金 | 両方で加入要件を満たすと届出が要る | 手続きが増える |
| 雇用保険 | 同時に2つの適用事業では被保険者にならない | 片方だけ |
法律が「してはいけない」と書いているわけではありません。止まるのは、契約と手続きのほうです。


労働時間は通算されます。ただし条件があります
ここは正確に見てください。

労働基準法38条1項です。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
「事業場を異にする場合」には、別の会社も含まれます。2社で働いた時間を足して、8時間を超えた分は時間外労働になります。
ただし、有給消化中は事情が変わります。有給を取っている日は、労働していません。その日の前の会社での労働時間は0です。
だから、有給を当てている日に次の会社で8時間働いても、通算は8時間のままです。上限を超える形にはなりません。

問題になるのは、有給ではなく在籍しているだけの日に両方で働く場合です。前の会社に出勤しつつ、夜に次の会社で働くなら、そこは通算されます。

前の会社の就業規則は、まだ効いています
在籍している以上、当然です。

就業規則に兼業や副業を制限する定めがある場合、有給消化中もその対象です。退職日を迎えるまでは、労働契約が続いているからです。
ただし、制限の書き方によって効き方が変わります。
| 書き方 | 実際の効き方 |
|---|---|
| 許可制(届け出れば認める) | 届け出れば通ることが多い |
| 一律禁止 | 争いになったとき、範囲が広すぎると認められにくい |
| 競業のみ禁止 | 同業への転職だと正面から当たる |
同業へ移る場合は、競業避止の話が別に乗ってきます。判例は6つの項目で有効性を見ていて、一律に禁止するだけの規定は合理性が認められにくいとされています。


社会保険は、届出が必要になります
手続きが増えるところです。

健康保険法7条に、こう書かれています。
同時に二以上の事業所に使用される被保険者の保険を管掌する者は、第五条第一項及び前条の規定にかかわらず、厚生労働省令で定めるところによる。
つまり2社で同時に被保険者になる場合、どちらが保険者になるかを決める手続きが要ります。「二以上事業所勤務届」と呼ばれるものです。
保険料は、2社の報酬を合算して標準報酬月額を決め、それぞれの会社が報酬の比率で負担します。手取りの計算が変わるので、次の会社の給与担当にも伝わります。
ここが、前の会社に伝わる経路のひとつです。日本年金機構から前の会社へも通知が行くためです。

ただし、次の会社での勤務が加入要件を満たさない場合(週の所定労働時間が短いなど)は、この届出は要りません。短時間だけ手伝う形なら、起きないことになります。

雇用保険は、片方だけです
雇用保険は同時に2つに入れません。
労働者が被保険者になるかどうかは、雇用保険法6条1号により週の所定労働時間で決まります。
一週間の所定労働時間が二十時間未満である者(後略)
これに当たる人は適用除外です。そして2社で要件を満たす場合、主たる賃金を受ける1つの事業所でのみ被保険者になります。両方で加入することはありません。
前の会社を辞めた時点で資格を喪失し、次の会社で取得する流れになります。

前の会社に伝わる経路
隠せるかどうかの話です。

社会保険。2社で加入要件を満たすと届出が必要になり、日本年金機構を経由して両方の会社が知ることになります。
住民税。特別徴収の場合、複数の給与がある人は市区町村から通知が行きます。ただし退職の年は途中で普通徴収に切り替わることが多いので、必ず出るわけではありません。
人づて。同じ業界だと、取引先や元同僚から伝わります。これは制度の話ではありませんが、同じ業界にいるほど起きやすい経路です。
「バレない」という前提で動かないほうが安全です。次の会社の入社日を退職日の翌日にすれば、この話そのものが起きません。


手が少ないのは、日付をずらすことです
順番の話です。
有給消化を終えて退職日を迎え、その翌日から次の会社。この形なら、二重就労にも二以上事業所勤務にもなりません。
だから実際に問題になるのは、次の会社の入社日が前倒しでしか取れない場合です。人手が足りていて早く来てほしい、研修の日程が決まっている、といったときです。
その場合は、退職日を早める交渉のほうが筋が通ります。有給が残っているなら、消化できずに終わる日数と、次の会社で働ける日数を比べることになります。
退職日の調整は交渉です。自分で言い出せない場合、扱えるのは労働組合が運営する退職代行と、弁護士が対応する退職代行だけです。民間企業が運営している場合は、辞めると伝えるところまでになります。


よくある質問
- 有給消化中に次の会社で働くのは違法ですか
-
違法ではありません。2社に同時に雇われることを禁じる法律はないからです。ただし在籍している以上、前の会社の就業規則は効きます。兼業を制限する定めがあれば、その対象になります。
そのうえで手続きが増えます。2社で健康保険の加入要件を満たすと、健康保険法7条により保険者を決める届出が必要です。雇用保険は同時に2つに入れないので、主たる賃金を受ける1つの事業所だけになります。
- 労働時間が通算されると聞きました
-
労働基準法38条1項が、労働時間は事業場を異にする場合においても通算する、と定めています。別の会社で働いた時間も足されます。
ただし有給を取っている日は、前の会社では労働していないので0です。だからその日に次の会社で8時間働いても、通算は8時間のままになります。通算が問題になるのは、前の会社に出勤しつつ次の会社でも働く場合です。
- 就業規則で副業が禁止されています
-
在籍中なので効きます。ただし書き方によって扱いが変わります。届け出れば認める許可制なら、届け出れば通ることが多いところです。
一律に禁止する定めは、争いになったときに範囲が広すぎるとして認められにくいとされています。同業へ移る場合は競業避止の話が別に乗ってくるので、そこは分けて考えてください。
- 二以上事業所勤務届とは何ですか
-
同時に2つ以上の事業所で被保険者になる場合に、どちらが保険者になるかを決めるための届出です。健康保険法7条が、厚生労働省令で定めるところによるとしています。
保険料は2社の報酬を合算して標準報酬月額を決め、それぞれの会社が報酬の比率で負担します。日本年金機構を経由するので、両方の会社が知ることになります。次の会社での勤務が加入要件を満たさない場合は、この届出は要りません。
- 前の会社にバレますか
-
経路が3つあります。社会保険の届出、住民税の特別徴収、人づてです。
社会保険は、届出という形で必ず経由します。住民税は退職の年に普通徴収へ切り替わることが多いので、必ず出るわけではありません。人づては制度の話ではありませんが、同じ業界なら起きやすい経路です。バレない前提で動かないほうが安全です。
- 退職日の前に入社日を決めてしまいました
-
日付が重なっているなら、選択肢は3つです。次の会社に入社日をずらしてもらう方法、前の会社に退職日を早めてもらう方法、重なる期間だけ二重就労として手続きする方法です。
手が少ないのは入社日をずらすことですが、研修や配属の都合で動かないこともあります。その場合は退職日を早める交渉になります。有給が消化できずに終わる日数と、次の会社で働ける日数を比べて決めてください。
- 有給を捨てて早く辞めたほうがいいですか
-
金額で比べられます。有給1日あたりの賃金と、次の会社で1日働いて得られる賃金。次のほうが高いなら、早く移る計算が立ちます。
ただし有給は退職日を過ぎると権利が消えます。買い取りは原則できません。年休の目的は休むことなので、金銭に代えると目的が果たせなくなるからです。捨てる前に、残日数を数えてください。
- 退職日を早めてもらえますか
-
交渉になります。民法627条1項が定めているのは、申し入れから2週間で雇用が終わるという下限で、それより早く終わらせるには会社の同意が要ります。
会社にとっては引き継ぎが終わっていないなどの事情があるので、必ず通るとは限りません。自分で言い出しにくい場合、退職日の調整まで扱えるのは労働組合が運営する退職代行と、弁護士が対応する退職代行です。民間企業が運営している場合は、伝えるところまでになります。
まとめ:日付が重ならなければ、何も起きません
整理します。
- 2社に同時に雇われることを禁じる法律はない
- 止めているのは就業規則・社会保険・雇用保険の3つ
- 労働時間は通算される(労基法38条1項)。ただし有給の日は労働時間0なので通算に効かない
- 2社で加入要件を満たすと、健康保険は届出が必要(健保法7条)
- 雇用保険は同時に2つに入れない。主たる賃金を受ける1つだけ
退職日の翌日を入社日にすれば、この話は全部消えます。日付が動かせないときだけ、上の3つを確かめてください。


