「外回りだからみなし。残業代は出ない」と言われている人へ。
この制度が使えるのは、条文に書かれたひとつの条件を満たすときだけです。
この記事でわかること
- この制度が使える唯一の条件
- 「算定し難い」と言えなくなる具体例
- みなしでも外れないもの
- 労使協定と届出で確かめる方法
結論:条件は「労働時間を算定し難いとき」だけです
条文がそう書いています。

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
「事業場外で働いたとき」ではありません。「事業場外で働いて、なおかつ労働時間を算定し難いとき」です。外に出ているだけでは足りません。


「算定し難い」と言えなくなる場面
いまの働き方だと、当てはまりにくくなっています。

会社が労働時間を把握できているなら、算定は難しくありません。次のような場合です。
| 状況 | 算定できる理由 |
|---|---|
| 携帯やチャットで随時の指示が飛ぶ | 会社が動きを把握し、指示している |
| 出発と帰社の時刻を記録している | 始業と終業が分かる |
| 訪問先と時刻を日報に書かせている | 各行動の時刻が残る |
| 社用車のGPSや運行記録がある | 移動と停車が記録されている |
| 決まった訪問先を決まった順で回る | 所要時間があらかじめ分かる |
スマートフォンが全員の手にある時代に、「算定し難い」と言える場面は狭くなりました。外回りだから自動的にみなし、という運用は条文とずれています。


みなす時間は2種類あります
条文が分けています。

38条の2第1項の本文は「所定労働時間労働したものとみなす」です。所定が8時間なら、何時間外に出ていても8時間として扱われます。
ただし、そのあとに但し書きがあります。その業務を行うのに通常は所定労働時間を超える必要がある場合は、「通常必要とされる時間」働いたものとみなす、という定めです。
つまり、実際に10時間かかる仕事なら、みなす時間も10時間になります。8時間に固定していいわけではありません。
そして「通常必要とされる時間」は、労使協定で決めることができます。38条の2第2項です。
前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。


協定は、届け出ることになっています
38条の2第3項です。
使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
ただし例外があり、労働基準法施行規則24条の2第4項にこう書かれています。
ただし、同条第二項の協定で定める時間が法第三十二条又は第四十条に規定する労働時間以下である場合には、当該協定を届け出ることを要しない。
みなす時間が週40時間・1日8時間の枠に収まるなら、届出は要りません。逆に言えば、8時間を超えるみなしをしているなら、労働基準監督署へ届け出ているはずです。ここが確認できる場所になります。

みなしでも、外れないものがあります
ここが誤解されます。

38条の2がみなしているのは、労働時間の算定だけです。労働基準法のほかの規定は、そのまま生きています。
| 何 | 外れるか |
|---|---|
| 労働時間の算定 | みなされる |
| 深夜労働の割増(22時〜5時) | 外れない |
| 休日労働の割増 | 外れない |
| 休憩 | 外れない |
| 年次有給休暇 | 外れない |
22時以降に働いた分の深夜割増は、みなしでも出ます。法定休日に働いた分の35%も同じです。「みなしだから何時間働いても給料は同じ」という説明は、この2つを落としています。

みなす時間が8時間を超える場合、超えた分は時間外労働です。36協定が要りますし、割増賃金も発生します。みなし=残業代が出ない、ではありません。

名ばかり管理職と、同じ構造です
見比べると分かります。

管理監督者は労働基準法41条2号で、事業場外みなしは38条の2で、どちらも労働時間の扱いが通常と変わります。そしてどちらも、名前ではなく実態で決まります。
管理監督者は「店長」という肩書きでは決まらず、事業場外みなしは「外回り」という職種では決まりません。
違いもあります。管理監督者は労働時間・休憩・休日の規定から外れますが、事業場外みなしで変わるのは労働時間の算定だけです。休憩も休日も、そのまま適用されます。
つまり事業場外みなしのほうが、外れる範囲は狭いということです。


確かめる場所は3つです
順番に見ます。
1つめは就業規則です。事業場外みなしを採用しているなら、労働時間の条に書かれています。何時間をみなすのかも、そこに出ています。
2つめは労使協定です。みなす時間が8時間を超えるなら、労働基準監督署へ届け出ています。協定には有効期間の定めを置くことになっています(労働基準法施行規則24条の2第2項)。
3つめは、日報と指示の記録です。訪問先の時刻を書かせているか。チャットで随時やり取りしているか。GPSで位置が見えているか。この3つのどれかがあるなら、会社は労働時間を把握できています。
把握できているのに「算定し難い」としているなら、そこが崩れます。


争わずに辞めるという道もあります
正直に書きます。
制度の当てはまりを争うには、実際の労働時間を証明する必要があります。会社の記録は会社側にあるので、辞めたあとでは手に入りません。
だから在職中に、自分の手元へ記録を残すことが先になります。始業と終業の時刻、訪問先、移動の時間。カレンダーアプリでも構いません。
そのうえで、争うか辞めるかは別の判断です。未払い賃金の請求は法律事件なので、扱えるのは弁護士だけです。労働組合が運営する退職代行では扱えません。
辞めるほうを選ぶなら、先に有給の残日数を確かめてください。外回りの職場ほど、有給は残りやすくなります。


よくある質問
- 外回りなら自動的にみなしになりますか
-
なりません。労働基準法38条の2第1項は、事業場外で業務に従事した場合において「労働時間を算定し難いとき」に限って、所定労働時間労働したものとみなすと定めています。
外に出ていることと、労働時間を算定できないことは別です。携帯で随時の指示が飛ぶ場合、日報に訪問先と時刻を書かせている場合、社用車のGPSで動きが見えている場合。こうした場合は、会社は労働時間を把握できているので、算定し難いとは言えなくなります。
- みなしだと残業代は一切出ないのですか
-
出る場合があります。みなす時間が8時間を超えるなら、超えた分は時間外労働です。36協定が必要ですし、割増賃金も発生します。
さらに、深夜労働の割増と休日労働の割増は、みなしでも外れません。22時から5時までに働いた分の割増は出ます。法定休日に働いた分の35%も同じです。38条の2がみなしているのは労働時間の算定だけで、ほかの規定はそのまま生きています。
- 「通常必要とされる時間」は誰が決めますか
-
原則は実態です。その業務を行うのに通常どれくらいかかるか、で決まります。8時間に固定していいわけではありません。
そのうえで、労働基準法38条の2第2項により、労使協定で決めることもできます。過半数組合があればその組合、なければ過半数代表者との書面による協定です。この協定で定めた時間が「通常必要とされる時間」になります。
- 労使協定は届け出るのですか
-
原則は届け出ます。労働基準法38条の2第3項が、厚生労働省令で定めるところにより行政官庁に届け出なければならないとしています。
ただし労働基準法施行規則24条の2第4項に例外があり、協定で定める時間が法定労働時間以下である場合は届出が要りません。つまり8時間を超えるみなしをしているなら、労働基準監督署に届け出ているはずです。会社に確認する材料になります。
- 直行直帰でもみなしになりますか
-
直行直帰そのものは条件ではありません。判断されるのは、労働時間を算定できるかどうかです。
直行直帰でも、出発と到着の時刻を報告させている、訪問先ごとに連絡を入れさせている、といった運用なら算定できます。逆に、一日中連絡がつかず、どこにいたかも分からない、という状態なら算定し難いと言えます。実態がどちらに近いかで決まります。
- 会社に確認するとしたら何を聞きますか
-
3つです。就業規則の労働時間の条に事業場外みなしの定めがあるか、みなす時間が何時間か、労使協定を労働基準監督署に届け出ているか。
就業規則は労働基準法106条により、労働者に周知する義務があります。労使協定も同じです。会社は労働者が見られる状態にしておく必要があるので、見せてほしいと言うこと自体は問題ありません。
- 名ばかり管理職とは何が違いますか
-
外れる範囲が違います。管理監督者は労働基準法41条2号により、労働時間、休憩、休日の規定から外れます。事業場外みなしで変わるのは労働時間の算定だけで、休憩も休日もそのまま適用されます。
共通しているのは、名前ではなく実態で決まる点です。管理監督者は肩書きでは決まらず、事業場外みなしは職種では決まりません。どちらも、会社の運用のほうが判断材料になります。
- 争いたいのですが何から始めますか
-
記録です。始業と終業の時刻、訪問先、移動時間を、自分の手元に残してください。会社の記録は会社側にあるので、辞めたあとでは手に入りません。カレンダーアプリやメモでも構いません。
そのうえで、未払い賃金の請求は法律事件の代理にあたるため、扱えるのは弁護士だけです。労働組合が運営する退職代行では扱えません。請求まで考えているなら、辞める前に弁護士へ相談してください。
まとめ:条件はひとつだけです
整理します。
- 使えるのは「労働時間を算定し難いとき」だけ(労基法38条の2第1項)
- 外回りであることは条件ではない。指示・日報・GPSがあれば算定できている
- みなす時間は所定労働時間。ただし通常それを超える業務なら、通常必要とされる時間
- 8時間を超えるみなしなら、労使協定は届出が要る
- 深夜割増と休日割増は外れない。休憩も年次有給休暇も同じ
「外回りだからみなし」は、条文の書き方とずれています。まず就業規則と労使協定を見てください。


