体調が戻りません。眠れません。休んでも回復しません。
それが労働時間のせいなら、会社の側にも義務があります。
この記事でわかること
- 会社が負っている配慮義務の条文
- 労働時間の把握が義務であること
- 在職中にしか集められない記録
- 辞める場合の順番
結論:会社には配慮する義務があります
条文から入ります。

労働契約法5条です。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
短い条文ですが、「安全」には健康も含まれます。けがをさせないことだけでなく、働き方によって健康を損なわせないことまでが対象です。
これは労働契約に伴って当然に生じる義務なので、就業規則に書いてあるかどうかに関係なく、会社は負っています。


労働時間を把握することも、義務です
配慮の前提になる部分です。

労働安全衛生法66条の8の3は、事業者に対し、面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとしています。把握していなければ、配慮のしようがないからです。
| 何 | 会社の義務 |
|---|---|
| 労働時間の状況の把握 | 労働安全衛生法66条の8の3 |
| 健康診断の実施 | 労働安全衛生法66条 |
| 長時間労働者への面接指導 | 労働安全衛生法66条の8 |
「自己申告だから会社は知らなかった」は通りにくくなっています。把握そのものが義務になっているためです。
タイムカードや勤怠システムの記録があるなら、会社は時間を知っていたことになります。


時間の上限は、別の条文で決まっています
配慮義務と合わせて見ます。

労働基準法36条6項により、時間外労働と休日労働の合計は1か月100時間未満、2〜6か月の平均で月80時間以内でなければなりません。協定を結んでいても超えられない数字です。
この水準を超えて働かせていた場合、会社が労働時間を把握していたなら、健康を損なうおそれを知り得たと評価されやすくなります。
そのうえで、実際に健康を損なったこと、そしてそれが労働の状況によるものであることを示す必要があります。時間が長かったという事実だけでは足りません。


在職中にしか集められないもの
ここが実務のいちばん重要なところです。

会社の記録は会社側にあります。辞めたあとは、見ることができません。
| 何 | どこにあるか | 辞めたあと |
|---|---|---|
| タイムカード・勤怠記録 | 会社 | 見られない |
| 業務メールの送受信時刻 | 会社 | 見られない |
| 給与明細の残業時間欄 | 自分 | 残る |
| 通院の記録・診断書 | 医療機関 | 残る |
| 自分でつけた記録 | 自分 | 残る |
自分の手元に残るものを、いまのうちに増やしてください。
始業と終業の時刻を、カレンダーアプリに毎日入れるだけでも記録になります。体調の変化も同じ場所に書いておくと、時期の対応が分かります。
書く項目は4つで足ります。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 始業と終業の時刻 | 9:10出社、23:40退社 |
| 休憩が取れたか | 昼10分だけ/取れず |
| その日の体調 | 頭痛、動悸、朝起きられない |
| 誰に何を言ったか | 上司へ「人が足りない」と伝えた |
毎日でなくても構いません。空白があっても、続いている記録のほうが後で意味を持ちます。
給与明細も捨てないでください。残業時間の欄が入っていれば、それ自体が会社の記録の写しになります。


医療機関にかかった記録は、別の意味でも要ります
体調を崩している場合、受診の記録は2つの場面で使います。
ひとつは、健康を損なったことを示す材料としてです。もうひとつは、傷病手当金や労災の手続きです。
症状が出た時期と、労働時間が重い時期が対応しているか。そこが後で問われます。受診したときに、いつから続いているかを医師へ伝えておいてください。

争うか、辞めるか
正直に書きます。

安全配慮義務に違反したとして責任を問うのは、損害賠償の請求です。これは法律事件なので、扱えるのは弁護士だけになります。労働組合が運営する退職代行では扱えません。
一方、辞めることを選ぶ場合でも、記録は無駄になりません。離職理由の判断に使えるためです。
離職の直前6か月のうちに一定の時間を超える時間外労働があった場合など、条件に当たると自己都合ではない扱いになることがあります。判断するのはハローワークなので、給与明細と自分の記録を持って相談してください。
先に体を戻すという選択もあります。争うことも辞めることも、動ける状態でないとできません。
順番としては、受診が先です。診断書が出れば、休職の制度がある会社なら使えます。就業規則の休職の条に、期間と条件が書かれています。休職中は傷病手当金の対象になる場合があり、健康保険から支給されます。辞めてしまうと選べる制度が減るので、先に在職のまま休めるかを確かめてください。


よくある質問
- 安全配慮義務とは何ですか
-
労働契約法5条が定めている義務です。使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする、と書かれています。
「安全」には健康も含まれます。けがをさせないことだけでなく、働き方によって健康を損なわせないことも対象です。労働契約に伴って当然に生じる義務なので、就業規則に書かれているかどうかに関係なく会社は負っています。
- 「自己申告だったから知らなかった」と言われました
-
通りにくい説明です。労働安全衛生法66条の8の3は、事業者に対し、面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとしています。把握することが義務なので、把握していなかったこと自体が問題になります。
タイムカードや勤怠システム、入退館の記録、業務メールの送受信時刻などが残っていれば、会社は労働時間を知り得たことになります。まず、自分の会社にどんな記録があるかを確認してください。
- どのくらいの残業だと問題になりますか
-
一律の線はありませんが、目安になる数字はあります。労働基準法36条6項は、時間外労働と休日労働の合計を1か月100時間未満、2〜6か月の平均で月80時間以内としています。36協定を結んでいても超えられない数字です。
この水準を超えて働かせ、会社が労働時間を把握していた場合、健康を損なうおそれを知り得たと評価されやすくなります。ただし時間が長かったという事実だけでは足りず、実際に健康を損なったことと、それが労働の状況によることを示す必要があります。
- 何を記録しておけばいいですか
-
始業と終業の時刻、それに体調の変化です。カレンダーアプリでも構いません。毎日入れておくと、時期の対応が後で分かります。
会社のタイムカードや勤怠システムは会社側にあるので、辞めたあとは見られなくなります。自分の手元に残るのは、給与明細の残業時間欄と、自分でつけた記録と、医療機関の記録です。この3つを在職中に増やしてください。
- 病院に行ったほうがいいですか
-
記録の面でも、行っておく意味があります。健康を損なったことを示す材料になりますし、傷病手当金や労災の手続きにも必要になります。
受診したときは、症状がいつから続いているかを医師に伝えてください。症状が出た時期と、労働時間が重い時期が対応しているかどうかが、後で問われる部分です。診断書は自分の手元に残ります。
- 会社に責任を問えますか
-
損害賠償の請求になります。これは法律事件の代理に当たるため、扱えるのは弁護士だけです。労働組合が運営する退職代行では扱えません。民間企業が運営している場合は、辞めると伝えるところまでになります。
請求まで考えているなら、辞める前に弁護士へ相談してください。在職中のほうが、会社側の記録に触れられる可能性が残ります。
- 辞めたら失業保険はどうなりますか
-
離職理由によって変わります。離職の直前6か月のうちに一定の時間を超える時間外労働があった場合など、条件に当たると自己都合ではない扱いになることがあります。給付制限がかからず、所定給付日数も変わります。
判断するのはハローワークです。離職票が届いたら記載された離職理由を確認して、事実と違うと思う場合は異議を申し立てられます。そのときに材料になるのが、給与明細と自分でつけた記録です。
- いま動く元気がありません
-
順番を変えてください。争うことも辞めることも、動ける状態でないとできません。先に体を戻すことを選んでも構いません。
そのあいだにできるのは、記録を残すことだけです。始業と終業の時刻を書く、受診する、給与明細を捨てずに取っておく。これだけでも、あとで選べる範囲が変わります。休職の制度がある会社なら、就業規則の休職の条を確認してください。
まとめ:記録は、在職中にしか増やせません
整理します。
- 会社は安全配慮義務を負っている(労働契約法5条)。就業規則に書いていなくても負う
- 労働時間の状況を把握することも義務(労働安全衛生法66条の8の3)
- 時間外と休日労働の合計は、月100時間未満・複数月平均80時間以内(労基法36条6項)
- 会社の記録は会社側にある。辞めたあとは見られない
- 責任を問うのは損害賠償なので、扱えるのは弁護士だけ
今日から、始業と終業の時刻を自分の手元に書いてください。争うか辞めるかを決めるのは、そのあとで構いません。


