仕事中にけがをしました。会社からは「健康保険を使って」と言われています。
それは違います。そして、療養中は解雇されません。
この記事でわかること
- 療養中とその後30日の解雇制限
- 療養の費用は誰が負担するか
- 休業中に受け取れる金額
- 会社が認めない場合の進め方
結論:療養中と、その後30日は解雇されません
ここから押さえます。

労働基準法19条1項です。
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間(中略)は、解雇してはならない。
「してはならない」と書かれています。療養のために休業している間と、そこから30日が過ぎるまで、会社は解雇できません。
例外は2つだけです。打切補償を支払う場合と、天災事変などで事業の継続が不可能になった場合。後者については、同条2項により行政官庁の認定が必要です。


療養の費用は、会社の負担です
健康保険ではありません。

労働基準法75条1項が、業務上のけがや病気について、使用者がその費用で必要な療養を行うか、費用を負担しなければならないとしています。
実際には、労災保険から給付される形になります。労働者災害補償保険法12条の8第1項が、業務災害に関する保険給付を並べています。
| 給付 | 何に対するものか |
|---|---|
| 療養補償給付 | 治療の費用 |
| 休業補償給付 | 休んだ期間の所得 |
| 障害補償給付 | 障害が残った場合 |
| 遺族補償給付・葬祭料 | 亡くなった場合 |
| 傷病補償年金 | 療養開始後1年6か月で治っていない場合 |
| 介護補償給付 | 介護が必要な状態の場合 |
療養補償給付には、窓口での自己負担がありません。健康保険のような3割負担は生じない仕組みです。
だから「健康保険証を出して」と言われたら、その時点で扱いが違います。


休んだ分は、4日目から出ます
金額の話です。

労災保険法14条1項です。
休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。
4日目からです。最初の3日間は待期期間で、労災保険からは出ません。
その3日間は、労働基準法76条1項により会社が休業補償を行うことになっています。平均賃金の60%です。
| 日 | 誰が払うか | 金額 |
|---|---|---|
| 1〜3日目 | 会社(労基法76条1項) | 平均賃金の60% |
| 4日目以降 | 労災保険(労災保険法14条1項) | 給付基礎日額の60% |


「労災は使わないで」と言われたら
ここが実務で起きます。

労災を使うと保険料率が上がる、記録が残る、といった理由で、会社が申請を渋ることがあります。
手続きは、会社の同意がなくても進められます。労災保険の給付は、労働者本人の請求に基づいて行われるものです。会社が証明欄に記入してくれない場合でも、その旨を書いて労働基準監督署に提出できます。
そして、業務上かどうかを判断するのは会社ではありません。労働基準監督署です。会社が「これは労災ではない」と言っても、それは会社の見解であって、決定ではありません。
請求書の様式は、療養補償給付なら5号または7号、休業補償給付なら8号と決まっています。労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のサイトからも取れます。書き方が分からなければ、窓口で聞きながら書けます。
健康保険で治療を受けてしまうと、あとで切り替える手続きが必要になります。その場でけがの原因を医療機関に伝え、業務中であることを言ってください。

「労災隠し」は、会社の側の問題です
労働安全衛生法により、労働者が業務上の負傷などで休業したときは、事業者が労働者死傷病報告を労働基準監督署へ提出することになっています。
これを出さなかったり、事実と違う内容で出したりすることは、いわゆる労災隠しです。責任を問われるのは事業者の側で、労働者ではありません。
「会社に迷惑がかかる」と考えて申請を控える人がいますが、報告しないことのほうが、会社にとっては重い問題になります。そこは分けて考えてください。

記録は、その日のうちに残します
あとから作れないものです。

けがの状況は、時間が経つほど曖昧になります。その日のうちに残せるものを残してください。
| 何 | どう残すか |
|---|---|
| いつ、どこで、何をしていて起きたか | メモ。時刻まで書く |
| けがの状態 | 写真 |
| 誰が見ていたか | 名前をメモ |
| 誰に報告したか | 日時と相手 |
| 受診した記録 | 診察券、領収書、診断書 |
目撃者の名前は、後から思い出せません。その場で聞いておいてください。
会社に報告した記録も重要です。口頭だけだと「聞いていない」となることがあります。メールやメッセージで送っておくと、日付が残ります。
会社の側にも記録があります。労働基準法109条は、労働者名簿、賃金台帳、雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存しなければならないとしています。災害補償に関する書類も、この保存の対象です。


よくある質問
- 療養中に解雇されることはありますか
-
原則としてありません。労働基準法19条1項が、業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間と、その後30日間は解雇してはならないと定めています。
例外は2つで、打切補償を支払う場合と、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合です。後者については同条2項により行政官庁の認定が必要になります。認定なしに解雇することはできません。
- 「健康保険を使って」と言われました
-
扱いが違います。労働基準法75条1項は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合、使用者がその費用で必要な療養を行うか、必要な療養の費用を負担しなければならないと定めています。
実際には労災保険の療養補償給付として支給され、窓口での自己負担は生じません。健康保険で治療を受けてしまうと、あとから切り替える手続きが必要になります。受診のときに、業務中のけがであることを医療機関へ伝えてください。
- 休んでいる間の収入はどうなりますか
-
4日目から出ます。労災保険法14条1項が、休業補償給付は賃金を受けない日の第4日目から支給し、その額は1日につき給付基礎日額の100分の60に相当する額としています。
最初の3日間は待期期間で、労災保険からは支給されません。その3日間については、労働基準法76条1項により、使用者が平均賃金の60%の休業補償を行うことになっています。会社と労災保険で、担当する期間が分かれる形です。
- 会社が労災の手続きをしてくれません
-
会社の同意がなくても進められます。労災保険の給付は労働者本人の請求に基づいて行われるもので、会社が代わりに申請する制度ではありません。
請求書には事業主が証明する欄がありますが、記入してもらえない場合は、その旨を記載して労働基準監督署へ提出できます。業務上かどうかを判断するのは会社ではなく、労働基準監督署です。まず監督署に相談してください。
- どんな記録を残せばいいですか
-
その日のうちに、5つ残してください。いつどこで何をしていて起きたか(時刻まで)、けがの状態の写真、目撃者の名前、報告した相手と日時、受診した記録です。
とくに目撃者の名前は、後から思い出せません。その場で聞いておいてください。会社への報告も、口頭だけだと「聞いていない」となることがあります。メールやメッセージで送ると日付が残ります。
- 通勤中のけがも同じですか
-
給付の名前が変わります。業務災害に関する給付は「療養補償給付」「休業補償給付」ですが、通勤災害の場合は「療養給付」「休業給付」という名称で、補償の字が入りません。
内容は近い形になっていますが、労働基準法19条の解雇制限は「業務上負傷し、又は疾病にかかり」とされているため、通勤災害はその文言に当たりません。どちらに当たるかで扱いが変わるので、まず状況を整理してください。
- 治ったあとに辞めてもいいですか
-
辞めること自体は妨げられません。19条が制限しているのは会社からの解雇であって、労働者から辞めることではありません。
ただし療養が続いている間は、傷病手当金や労災の給付との関係が出てきます。辞めるタイミングで受け取れるものが変わることがあるので、先に給付の状況を確認してください。判断するのは労働基準監督署なので、辞める前に相談しておくと確実です。
- 会社を辞めたら給付は止まりますか
-
労災保険の給付は、退職によって打ち切られません。療養や休業の状態が続いていれば、退職後も引き続き受けられる仕組みです。
ただし手続きの窓口や、必要な書類の出し方が変わることがあります。退職の前に、労働基準監督署へ状況を伝えておいてください。会社が閉まってしまうと、事業主の証明を取ることが難しくなります。
まとめ:療養中は、切られません
整理します。
- 業務上のけがで療養中と、その後30日間は解雇できない(労基法19条1項)
- 療養の費用は使用者の負担(労基法75条1項)。健康保険ではない
- 休業補償給付は4日目から、給付基礎日額の60%(労災保険法14条1項)
- 最初の3日間は会社が平均賃金の60%(労基法76条1項)
- 手続きは会社の同意がなくても進められる。判断するのは労働基準監督署
その日のうちに、時刻と目撃者の名前を書いてください。あとから作れない記録です。


