退職を伝えたあと、有給消化に入ってから賞与の支給日が来ることがあります。
在籍しているのに、振り込まれません。探すと、この話は驚くほど出てきます。
この記事でわかること
- 有給消化中は在籍しているので、支給日在籍要件は満たしていること
- それでも支給されない場合に、会社が使っている別の規定
- その規定が効力を持つために必要な条件
- 支給日の前に確認しておく3つ
結論:有給消化中は「在籍している」に当たります
まず、ここを取り違えている人が多いです。
年次有給休暇を使っている期間も、労働契約は続いています。辞めているわけではありません。だから支給日に有給消化中なら、支給日に在籍していることになります。

それでも支給されない場合、会社は在籍とは別の理由を使っています。
多くは、就業規則の賃金規程にあるこの手の条項です。
賞与支給日において既に退職している者又は退職を予定している者には賞与を支給しない
「在籍していない」ではなく「退職を予定している」で切っています。有給消化中でも、退職届を出していれば該当します。

実際にあった事案です
中央労働委員会のあっせん事例に、ほぼ同じ形が載っています。
Aは翌年1月15日付けで自己都合退職する旨の退職届を会社に提出し、引継を行った後、残っていた年次有給休暇を全て取得したが、休暇中に支給となった冬季賞与がAには支給されなかった。
会社の回答は、先ほどの条項でした。支給日である12月20日時点で、1月15日付けの退職を予定していたからというものです。
ただ、この事案には続きがあります。その就業規則を、労働者は見たことがありませんでした。そこが争点になりました。
そもそも賞与は、支払う義務がありません
前提として書いておきます。
賞与は、法律上の支払い義務がある賃金ではありません。支払うかどうか、いくら払うかは、その会社の就業規則(賃金規程)で決まります。

厚生労働省の整理では、賞与は「臨時の賃金等」に当たり、相対的必要記載事項です。
| 就業規則への記載 | |
|---|---|
| 賃金(毎月の給与) | 絶対的必要記載事項。必ず書く |
| 退職に関する事項 | 絶対的必要記載事項。必ず書く |
| 退職手当 | 定めをした場合は書く |
| 賞与(臨時の賃金等) | 定めをした場合は書く |
つまり「制度を作ったなら、内容を就業規則に書かなければならない」ということです。
だから、争うにしても交渉するにしても、出発点は規程です。規程に何と書いてあるかで結論が変わります。
義務はなくても、金額は小さくありません
いくらの話をしているのかを出しておきます。
厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年度確報・事業所規模5人以上)では、フルタイムで働く人の「特別に支払われた給与」は月あたり97,636円でした。前年度より3.7%増えています。
これは賞与を1年で均して月額にした数字なので、年に直すと約117万円です。年2回の会社なら、単純に割って1回あたり約58万円になります。
ただし産業でかなり違います。
| 産業(一般労働者) | 特別に支払われた給与(月あたり) |
|---|---|
| 金融業、保険業 | 157,494円 |
| 製造業 | 107,366円 |
| 卸売業、小売業 | 104,589円 |
| 運輸業、郵便業 | 74,076円 |
| 医療、福祉 | 70,699円 |
| 飲食サービス業等 | 43,615円 |
金融と飲食では3.6倍の開きがあります。自分の業界の数字で考えてください。
なお「特別に支払われた給与」には、賞与のほかに期末手当や一時金も入ります。賞与だけの金額ではありません。パートタイムだと月4,154円で桁が変わるので、同じ枠では見ないでください。



支給日にもう辞めていたら、原則もらえません
ここは正確に書きます。支給日在籍要件そのものは、最高裁で有効とされています。

大和銀行事件(最高裁第一小法廷 昭和57年10月7日)では、こう判断されています。
支給日に在籍している者に対してのみ決算期間を対象とする賞与が支給される慣行が存在し、就業規則改訂は合理性を有する
出典は厚生労働省の賞与不払い|裁判例です。
「働いた期間があるのだから当然もらえる」は通りません。支給日に在籍していなければ、原則として請求できません。
だから、退職日をどこに置くかが効きます
支給日の前に退職日が来ると、その回の賞与は原則もらえません。
- 支給日の後ろに退職日を置けば、在籍要件は満たします
- 有給が残っているなら、消化期間を使って退職日を後ろにずらせる場合があります
退職を伝える前に、支給日を確認しておいてください。伝えたあとだと、日付の交渉がしにくくなります。
その規定、見たことがありますか
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
就業規則は、労働者に周知されていなければ効力を持ちません。

フジ興産事件(最高裁第二小法廷 平成15年10月10日)で、こう判断されています。
就業規則が法規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する
周知の方法は3つに決まっています
労働基準法106条1項と労働基準法施行規則52条の2で、方法が決められています。
| # | 方法 |
|---|---|
| ① | 常時、各作業場の見やすい場所へ掲示するか備え付ける |
| ② | 書面を労働者に交付する |
| ③ | 電子的に記録し、各作業場に常時確認できる機器を設置する |
この3つのどれもやっていない場合、その就業規則は効力を争う余地があります。
先ほどの中労委の事案では、会社側も「就業規則があることを労働者全員に知らせていない」と認めていました。労働者は約20年働いていて、就業規則の存在自体を知りませんでした。

だから、まず「どこに書いてあるか」を聞いてください
支給されなかったとき、感情で聞くと話が進みません。聞くのは1つだけです。
その取り扱いは、どの規程の何条に書いてありますか。
これで、次のどれかになります。
- 条文が出てくる … 内容を確認して、そのうえで判断する
- 口頭のルールだと言われる … 就業規則に書いていない可能性がある
- 見せてもらえない … 周知されていない可能性がある
「退職予定だから」だけを理由に減らすのは、違法とされた例があります
不支給ではなく、大幅に減らされることもあります。

ここは判断が分かれています。
| 事件 | 判断 |
|---|---|
| ベネッセコーポレーション事件(東京地裁 平成8年6月28日) | 退職予定の労働者に対して賞与を僅少な金額に止めることは違法 |
| マナック事件(広島高裁 平成13年5月23日) | 勤務成績等を査定した不支給・減額は使用者に裁量権があり、逸脱がなければ適法 |
分かれ目は「なぜ減らしたか」です。
勤務成績を評価した結果の減額なら、会社の裁量の範囲とされます。一方、退職予定であることだけを理由に僅少にするのは、違法とされた例があります。
減額を告げられたら、理由が成績なのか、退職予定なのかを確認してください。
言いにくいなら、退職を誰に言うかの順番から整理してください。
支給日の前に、確認しておく3つ
退職を伝える前に済ませておくと、あとで揉めません。

- 賞与の支給日はいつか(規程か、過去の明細で分かります)
- 退職予定者に関する条項があるか(賃金規程を見る)
- 退職日を支給日の後ろにできるか(有給の残日数と合わせて考える)
3つとも在職中なら調べられます。辞めたあとだと、規程を見ること自体ができなくなります。



よくある質問
- 有給消化中に支給日が来ました。在籍しているのに支給されないのはおかしくないですか?
-
有給消化中は労働契約が続いているので、支給日在籍要件は満たしています。それでも支給されない場合、会社は「退職を予定している者には支給しない」といった別の条項を使っている可能性が高いです。
賞与は労働基準法89条4号の「臨時の賃金等」に当たり、定めを置くなら就業規則に書くことになっています。まず、その取り扱いがどの規程の何条にあるかを聞いてください。就業規則に定めがなく口頭の運用だけなら、根拠がないことになります。
なお89条が就業規則の作成を義務づけているのは常時10人以上を使用する会社です。それより小さい会社だと、規則そのものが無いこともあります。
- 支給日在籍要件は違法ではないのですか?
-
違法ではありません。大和銀行事件(最高裁第一小法廷 昭和57年10月7日)で、支給日に在籍している者にのみ支給するという就業規則の改訂には合理性があるとされています。働いた期間があるから当然もらえる、という主張は通りません。だからこそ、退職日を支給日の後ろに置けるかどうかが実際の分かれ目になります。
- 就業規則を見せてもらえません
-
就業規則は、周知されていなければ効力を持ちません。フジ興産事件(最高裁第二小法廷 平成15年10月10日)で、拘束力を生じるには労働者に周知させる手続が必要とされています。周知の方法は労働基準法106条1項などで、掲示か備え付け、書面の交付、常時確認できる機器の設置の3つです。どれもされていないなら、その規定を根拠にした不支給は争う余地があります。
- 賞与が半分に減らされました
-
理由が何かによります。勤務成績を査定した結果の減額であれば、使用者に裁量権があるとされています(マナック事件・広島高裁 平成13年5月23日)。一方、退職予定であることだけを理由に僅少な金額に止めるのは違法とされた例があります(ベネッセコーポレーション事件・東京地裁 平成8年6月28日)。減額の理由が成績なのか退職予定なのかを、まず確認してください。
- 退職日を支給日の後ろにずらしてもらえますか
-
交渉次第です。有給が残っていれば、消化期間を使って退職日を後ろに置ける場合があります。
年次有給休暇は労働基準法39条により、勤続6か月で10日が付与されます。そこから1年ごとに加算され、6年以上の加算は10日なので、上限は年20日です。20日あれば、退職日を1か月近く後ろへずらす計算が立ちます。
ただし退職を伝えたあとだと、日付の話がしにくくなります。伝える前に支給日を調べ、退職日の希望を最初から支給日の後ろにしておくほうが確実です。過去の給与明細を見れば、支給日はすぐ分かります。
- 賞与は必ずもらえるものではないのですか
-
法律上の支払い義務はありません。賞与は「臨時の賃金等」として就業規則の相対的必要記載事項に位置づけられていて、制度を定めた場合に記載が必要になるものです。制度自体がない会社もあります。
ただし義務が無いことと、金額が小さいことは別です。毎月勤労統計調査の2025年度確報では、フルタイムで働く人の「特別に支払われた給与」は月あたり97,636円で、年に直すと約117万円でした。もらえるかどうかで動く額としては小さくありません。
だから「もらえるはず」ではなく「規程に何と書いてあるか」から確認してください。
- 辞めたあとに気づきました。もう請求できませんか
-
規程の内容によります。支給日に既に退職していた場合は、支給日在籍要件が有効とされているため、請求は難しくなります。有給消化中で在籍していたのに支給されなかった場合は、根拠となる規定の有無と周知の状況が争点になります。
期限もあります。労働基準法115条は賃金の請求権を5年としていますが、附則143条3項により、当分の間は退職手当が5年、それ以外の賃金は3年です。賞与はこの3年のほうに入ります。
会社とのやりとりが残っているなら、日付と誰が何と言ったかをメモに残しておいてください。
- 会社に直接聞きたくありません
-
代わりに連絡してもらう方法があります。ただし運営元の類型によってできることが違い、3つに分かれます。
民間企業が運営している場合は、辞めると伝えるところまでです。労働組合が運営している場合は、労働組合法6条により団体交渉ができるので、賞与や退職日の交渉まで扱えます。弁護士が対応する場合は、未払いの請求や訴訟まで進められます。
賞与の支払いを求めるのは交渉に当たるので、伝えるだけの類型では足りません。どこが運営しているかを確認してから選んでください。
まとめ:在籍しているかどうかより、規程に何と書いてあるか
有給消化中は在籍しています。支給日在籍要件は満たしています。
それでも支給されないなら、会社は「退職を予定している者には支給しない」という別の条項を使っています。
- 支給日にもう辞めていたら、原則もらえません(大和銀行事件・最高裁)
- 就業規則が周知されていなければ、効力を持ちません(フジ興産事件・最高裁)
- 退職予定であることだけを理由に僅少にするのは、違法とされた例があります(ベネッセ・東京地裁)
聞くことは1つです。その取り扱いは、どの規程の何条に書いてありますか。
そして、いちばん確実なのは退職を伝える前に支給日を調べておくことです。過去の給与明細を見れば分かります。

