妊娠中と産後1年の解雇は、原則として無効です。しかも「妊娠が理由ではない」と証明するのは、会社の側です。
法律が3本重なっているところなので、順番に開いていきます。
この記事でわかること
- 妊娠中と産後1年の解雇で、証明の負担がどちらにあるか
- 指針が定めている2つの型と、該当しない場合
- 男性の育児休業で起きていることの数字
- 辞めるとき、離職理由がどう扱われるか
結論:3本の法律が、別々の角度からふさいでいます
まず全体を出します。

| 法律 | 何を禁じているか |
|---|---|
| 男女雇用機会均等法9条3項 | 妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱い |
| 男女雇用機会均等法9条4項 | 妊娠中と産後1年以内の解雇は無効。会社が証明したときだけ有効 |
| 男女雇用機会均等法11条の3 | 妊娠・出産等に関する言動による就業環境の侵害を防ぐ措置義務 |
| 育児介護休業法10条 | 育児休業の申出・取得を理由とする解雇その他不利益な取扱い |
| 育児介護休業法25条 | 制度の利用に関する言動を防ぐ措置義務と、相談を理由とする不利益取扱いの禁止 |
| 労働基準法19条1項 | 産前産後の休業期間とその後30日間の解雇の禁止 |
同じ行為が、複数の条文に同時に当たることがあります。だから「これは違法なのか」で立ち止まる必要はあまりありません。どの角度から見ても引っかかる作りになっています。


妊娠中と産後1年の解雇は、証明する側が逆です
ここがいちばん強い条文です。

男女雇用機会均等法9条4項の原文です。
妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
読み方を分けます。原則が「無効」で、例外が「会社が証明したとき」です。
裁判でも交渉でも、ふつうは主張する側が根拠を出します。ところがこの条文では、働いている側が「妊娠が理由だ」と証明する必要がありません。会社の側が「妊娠が理由ではない」と証明できなければ、解雇は無効のままです。
そして労働基準法19条1項が、期間そのものを止めています。
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。(後略)
産前産後の休業中と、その後30日間。この間は、理由の中身にかかわらず解雇できません。均等法9条4項の1年と、労基法19条1項の「休業期間+30日」は、別の条文が別の期間をふさいでいる形です。


指針は、2つの型に分けています
言動のほうの話です。

厚生労働省の指針(平成28年厚生労働省告示第312号)は、こう分けています。
職場における妊娠、出産等に関するハラスメントには、上司又は同僚から行われる以下のものがある。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントには該当しない。
先に、該当しない場合を確かめておきます。業務の分担や安全への配慮から出た言動は、外れます。担当を軽くする相談や、重い作業を代わるという申し出は、これに当たります。
そのうえで2つの型です。
| 型 | 何が引き金か |
|---|---|
| 制度等の利用への嫌がらせ型 | 産前休業、軽易な業務への転換、時間外・深夜業の制限、育児時間などの制度を使うこと |
| 状態への嫌がらせ型 | 妊娠したこと、出産したこと、つわりなどで労務の提供ができないこと |
制度等の利用への嫌がらせ型には、典型例が挙げられています。
(イ) 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等をしないよう言うこと。
(ロ) 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、上司が当該女性労働者に対し、当該請求等を取り下げるよう言うこと。
上司の場合、1回で該当します。同僚については「繰り返し又は継続的に」という条件が付いていて、上司とは書き分けられています。言う側の立場で線が引かれている、ということです。

「仕事を外される」も、指針に書かれています
嫌がらせ等の中身が、指針で定義されています。
嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることをいう。以下同じ。)
暴言だけではありません。仕事を回さないこと、雑務だけにすることが、名指しで入っています。「気をつかってくれているのかもしれない」と受け取りやすい形ですが、指針の側は嫌がらせ等として扱っています。
状態への嫌がらせ型のほうにも、見落とされやすい定義があります。
⑤ 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと((中略))。なお、「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回復不全等、妊娠又は出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状をいう。
つわりで休んだこと、能率が落ちたことを引き金にした言動も、この型に入ります。


男性のほうが、報復されています
調査で構図が分かれました。

厚生労働省の委託事業「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(令和6年3月)は、当事者にしぼった調査もしています。過去5年間に就業中に妊娠・出産した女性1,000人と、過去5年間に勤務先で育児にかかわる制度を利用しようとした男性500人です。
ハラスメントを受けたと答えた割合は、女性26.1%、男性24.1%でした。ほぼ同じです。
違いが出たのは、そのあとです。
| 何 | 女性 | 男性 |
|---|---|---|
| 勤務先が認識していた | 認識していなかった53.6% | 認識していた55.0% |
| 知った後の勤務先の対応 | 特に何もしなかった35.5% | 相談したことを理由に不利益な取扱いをした47.0% |
| 勤務先による認定 | あいまいなままだった47.1% | 認めなかった50.0% |
女性の側は「気づかれないまま流れる」、男性の側は「気づいたうえで報復される」。まったく逆の壊れ方をしています。
とくに男性の47.0%は、育児介護休業法25条2項に正面から当たる行為です。
事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
相談したことを理由に不利益な取扱いをすること自体が、独立した違反です。もとのハラスメントとは別に積み上がります。

企業側の調査(回答7,780社)では、過去3年間に妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの相談があった企業は10.2%でした。パワハラの64.2%、セクハラの39.5%と比べて低い数字です。件数が少ないのか、相談まで届いていないのかは、この調査からは分かりません。

会社が動かないとき、労働局に2つの道があります
社内で終わらない場合です。

均等法にも育児介護休業法にも、同じ形の手続きがあります。
| 手続き | 均等法 | 育児介護休業法 |
|---|---|---|
| 都道府県労働局長の助言・指導・勧告 | 17条1項 | 52条の4第1項 |
| 紛争調整委員会の調停 | 18条1項 | 52条の5第1項 |
| 勧告に従わないときの公表 | 30条 | 56条の2 |
どちらの条文も、都道府県労働局長は紛争の当事者の「双方又は一方」から解決の援助を求められた場合に、必要な助言、指導または勧告をすることができる、という書き方です。一方から求めれば足りるので、会社の同意はいりません。育児介護休業法52条の4第1項も、均等法17条1項と同じ文言で書かれています。
そして、求めたこと自体も守られています。均等法17条2項・18条2項は11条2項を、育児介護休業法52条の4第2項・52条の5第2項は25条2項を、それぞれ準用しています。労働局に助けを求めたことを理由とする不利益な取扱いも禁止、ということです。

慰謝料や損害賠償の請求までとなると、法律事件の代理にあたるので弁護士の領域です。労働組合が運営する退職代行では扱えません。

2026年10月1日から、条番号が動きます
改正法の話を1つだけ添えます。令和7年改正法により、2026年10月1日から均等法の条番号が変わります。この記事で挙げた11条の3は、15条になります。中身は同じです。
動くのはここだけではありません。11条の2は12条に、11条の4は16条になり、13条と14条には求職者に対するセクハラの規定が新しく入ります。保健指導や健康診査の時間の確保を定めた12条は、17条へ移ります。
検索して出てきた記事や社内の資料で番号が食い違っていたら、書かれた時期の違いである可能性があります。条文の中身を見て確かめてください。

辞めると決めたら、離職理由を確かめます
給付が変わるところです。

ハローワークの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」には、2つの枠が用意されています。1つめは制度の利用や不利益取扱いのほうです。
事業主が法令に違反し、妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ、若しくはそれらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限したこと又は妊娠したこと、出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし、若しくは利用をしたこと等を理由として不利益な取扱いをしたため離職した者
2つめは、言動のほうです。
(前略)事業主が職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者
どちらも特定受給資格者、つまり会社都合と同じ扱いです。給付の開始時期と日数が変わります。ただし2つめには「把握していながら」という条件が付いています。伝えた事実が残っているかどうかで、結論が変わります。
判断するのはハローワークです。会社が離職票にどう書くかで自動的に決まるわけではありません。食い違う場合は、記録を持って申し出ることになります。


交渉が要るなら、選ぶ相手が変わります
最後に、頼む先の話です。
退職代行は運営元で扱える範囲が変わります。民間企業が運営している場合、会社と条件を交渉すると弁護士法72条に触れるおそれがあるため、辞めると伝えるところまでです。退職日や有給の交渉まで扱えるのは、労働組合が運営している場合と、弁護士が対応する場合だけです。
| 運営元 | できること | この場面で |
|---|---|---|
| 民間企業型 | 辞めると伝えるところまで | 復職日や休業の扱いを詰められない |
| 労働組合型 | 退職日・有給・最終給与の交渉まで | 産休・育休をまたぐ条件を整えられる |
| 弁護士型 | 請求・訴訟まで | 解雇の無効を争うならここ |
解雇そのものを争う場合は弁護士型です。均等法9条4項で証明の負担が会社側にあるとはいえ、争うこと自体が法律事件だからです。一方、辞めることは決めていて、退職日と有給と最終給与だけ整えたいなら、労働組合型で足ります。


よくある質問
- 妊娠を伝えたら辞めるよう言われました
-
均等法9条3項は、妊娠したこと、出産したこと、産前産後の休業を請求したことなどを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。退職を勧めること自体も、指針の「解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの」に当たりえます。
そして、退職に同意しないまま解雇された場合は9条4項です。妊娠中と産後1年以内の解雇は原則無効で、会社が「妊娠等が理由ではない」と証明したときだけ有効になります。証明する側が会社である点を、先に押さえてください。
- 業務を軽くされたのはマタハラですか
-
指針には、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動によるものは該当しない、と明記されています。重い作業を代わる、担当を調整するといった申し出は、この範囲です。
一方で、指針は嫌がらせ等の中身に「業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させること」を挙げています。仕事をまったく回されない、雑務だけになる、という状態まで行くと別です。線は、必要性が客観的に説明できるかどうかにあります。
- 上司に1回言われただけでも該当しますか
-
制度等の利用への嫌がらせ型の典型例では、上司の言動に回数の条件が付いていません。制度を使いたいと相談したところ、上司が請求しないよう言った、あるいは取り下げるよう言った。これで典型例に当たります。
同僚の場合は書き方が違い、4つ並んだ典型例のうち同僚が出てくる2つだけに「繰り返し又は継続的に」という条件が付いています。指示を出せる立場かどうかで線が変わる作りです。
なお、指針にはこの典型例が限定列挙ではないという注記もあります。挙げられていない言い方でも、制度の利用の請求等が客観的にみて阻害されていれば当たりえます。
- 男性の育児休業でも対象になりますか
-
なります。育児介護休業法25条1項は、育児休業、介護休業その他の子の養育または家族の介護に関する制度の利用に関する言動を対象にしていて、性別で分けていません。
実態調査では、過去5年間に育児にかかわる制度を利用しようとした男性のうち24.1%がハラスメントを受けたと答えています。女性の26.1%とほぼ同じです。しかも、勤務先が相談したことを理由に不利益な取扱いをしたと答えた割合は47.0%でした。
- 相談したら立場が悪くなりませんか
-
均等法11条2項と育児介護休業法25条2項が、相談したことや事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。労働局に助言や調停を求めた場合も、それぞれの準用規定で同じように守られます。
ただし、実態調査では男性の47.0%が実際に不利益な取扱いを受けたと答えています。禁止されていることと、起きないことは別です。相談した日付が残る形にしておくと、後から効きます。
- 育休から戻る場所がないと言われました
-
育児介護休業法10条は、育児休業の申出や取得を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。原職またはこれに相当する職への復帰が難しいと告げられた場合、それが休業を理由としたものかどうかが問題になります。
判断が微妙な場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。育児介護休業法52条の4第1項により、当事者の一方から求めれば助言・指導・勧告の対象です。会社の同意はいりません。
- 辞めたら離職理由はどうなりますか
-
ハローワークの「特定受給資格者の範囲」には2つの枠があります。制度の利用を不当に制限された場合や、妊娠・出産・制度の利用を理由に不利益な取扱いを受けた場合が1つ。会社が言動による就業環境の侵害を把握しながら措置を講じなかった場合がもう1つです。
どちらも会社都合と同じ扱いになります。雇用保険法33条1項の給付制限、つまり自己都合の場合に1か月以上3か月以内の間で公共職業安定所長が定める期間は基本手当が出ない、という扱いを受けません。所定給付日数も、同法22条1項の90日から150日ではなく、23条で年齢と算定基礎期間ごとに決まる日数になります。
判断するのはハローワークです。会社の記載と違う場合は、相談したときの記録を持って申し出ることになります。
- 産休・育休をまたいで辞めることはできますか
-
できます。退職日をいつにするかは労働契約の話なので、休業中でも決められます。民法627条1項により、期間の定めのない契約なら申入れの日から2週間で終了します。
ただし日付で変わるものがあります。社会保険料の免除、育児休業給付の支給、健康保険の扱い。この3つは退職日をまたぐかどうかで結論が変わるので、決める前に会社の担当と年金事務所またはハローワークの両方に確かめてください。ここは会社の説明だけで決めないほうが安全です。
自分で日程を詰めるのが難しい場合、退職日の調整まで扱えるのは労働組合が運営する退職代行と、弁護士が対応する退職代行です。民間企業が運営している場合は、伝えるところまでになります。
まとめ:条文は、こちら側に寄っています
整理します。
- 妊娠中と産後1年の解雇は原則無効。証明するのは会社の側(均等法9条4項)
- 産前産後の休業中とその後30日間は、理由を問わず解雇できない(労基法19条1項)
- 言動については、上司は1回でも典型例に当たる。仕事を外すことも嫌がらせ等に入る
- ただし、業務上の必要性に基づく言動は該当しない
- 相談したことを理由とする不利益取扱いは、それ自体が別の違反
証明の負担がこちら側にない、というのがこの分野の特徴です。争う場合も、辞める場合も、そこが出発点になります。
そのうえで、条件の調整を自分でやりきれないなら、任せられる相手がいます。

