「年俸制だから残業代は出ない」
そう言われている人へ。年俸制は、賃金の決め方であって、労働時間の制度ではありません。
この記事でわかること
- 年俸制でも割増賃金の義務が外れない理由
- 年俸に残業代を含めるための条件
- 年俸でも毎月払わなければならないこと
- 「管理職だから」「みなしだから」との違い
結論:年俸制は、労働時間の制度ではありません
ここが出発点です。

労働基準法には「年俸制」という制度がありません。労働時間の扱いを変える制度は、法律に名前が書かれています。
| 制度 | 根拠 | 何が変わるか |
|---|---|---|
| 管理監督者 | 労働基準法41条2号 | 労働時間・休憩・休日の規定が適用されない |
| 事業場外みなし | 労働基準法38条の2 | 労働時間の算定がみなしになる |
| 裁量労働制 | 労働基準法38条の3・38条の4 | 労働時間の算定がみなしになる |
| 年俸制 | 条文なし | 賃金の決め方が年単位になるだけ |
年俸制だけ、根拠になる条文がありません。賃金をいくらにするかを1年単位で決めているだけで、労働時間の規定はそのまま適用されます。
だから、時間外労働をすれば割増賃金が発生します。


年俸でも、毎月払うことになっています
意外に知られていない部分です。

労働基準法24条2項です。
賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
年俸で決めても、支払いは毎月です。1年分をまとめて年末に払う、という形は取れません。12分割や16分割で毎月支払うことになります。
そして、その毎月の支払いのなかで、通常の労働時間の賃金と割増賃金が分かれている必要があります。


「年俸に含んでいる」が通る条件
含めること自体は、できないわけではありません。

ただし条件があります。通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分を判別できることです。
| 見るところ | 通る形 | 通らない形 |
|---|---|---|
| 内訳 | 基本部分と割増部分の金額が分かれている | 「年俸600万円」だけ |
| 時間数 | 何時間分の割増かが書いてある | 書いていない |
| 超えた分 | その時間を超えたら追加で支払うと明記 | 何も書いていない |
「年俸に残業代を含む」とだけ書かれている場合、判別ができません。その場合、年俸の全額が通常の労働時間の賃金として扱われ、割増賃金は別に発生する形になります。
自分の労働条件通知書と給与明細を並べて、金額と時間数が書かれているかを見てください。


賞与の扱いで、単価が変わります
年俸の一部を賞与として払う形があります。
割増賃金の単価は、原則として通常の賃金から計算します。臨時に支払われる賃金や賞与は、その計算の基礎から除かれます。
ただしあらかじめ年俸の総額が決まっていて、その一部を賞与として分けているだけの場合は、扱いが変わります。金額が確定しているものは、臨時の賃金とは言えないためです。
この違いで、残業1時間あたりの単価が変わります。年俸を16分割して、うち4か月分を賞与としている会社なら、確認する価値があります。

深夜と休日は、別の枠です
ここは管理職の話と同じ構造です。

労働基準法37条4項です。
使用者が、午後十時から午前五時まで(中略)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
22時から5時までの深夜割増は、年俸制でも出ます。法定休日に働いた分の割増も同じです。
さらに、時間外が1か月60時間を超えた部分の割増率は5割以上になります(37条1項ただし書)。年俸に含めているという説明があっても、この部分まで含んでいるかは別の話です。


確かめる場所は3つです
順番に見ます。

1つめは労働条件通知書です。年俸の額だけでなく、内訳が書かれているかを見ます。基本部分がいくらで、割増部分がいくらで、何時間分なのか。
2つめは給与明細です。毎月の支払いのなかで、基本給と時間外手当が分かれて記載されているか。合算されて1行になっているなら、判別できない形です。
3つめは就業規則の賃金規程です。年俸制を採用しているなら、計算方法が書かれています。時間外の割増をどう扱うかも、ここに定めがあるはずです。
3つとも在職中なら見られます。辞めたあとは、就業規則を見ること自体ができなくなります。


よくある質問
- 年俸制だと残業代は出ないのですか
-
出ます。労働基準法に「年俸制」という労働時間の制度はありません。年俸制は賃金を1年単位で決める方法であって、労働時間の規定を変えるものではないからです。
労働時間の扱いが変わる制度には、管理監督者(41条2号)、事業場外みなし(38条の2)、裁量労働制(38条の3・38条の4)があり、それぞれ条文に根拠があります。年俸制にはそれがありません。だから37条の割増賃金の支払義務は、そのまま残ります。
- 「年俸に残業代を含む」と言われました
-
含めること自体はできますが、条件があります。通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分を判別できることです。
具体的には、基本部分と割増部分の金額が分かれていること、何時間分の割増なのかが分かること、その時間を超えたら追加で支払うと定められていることです。「年俸に含む」とだけ書かれていて内訳がない場合、判別できないため、年俸の全額が通常の賃金として扱われることになります。
- 年俸を12分割して毎月もらっています。これは正しいですか
-
正しい形です。労働基準法24条2項が、賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないと定めています。年俸で決めても、支払いは毎月です。
1年分をまとめて年度末に払う形は取れません。12分割のほか、一部を賞与として16分割にする会社もあります。ただし分割の仕方によって、割増賃金の単価の計算が変わることがあります。あらかじめ総額が決まっているものは、臨時の賃金とは扱われないためです。
- 深夜に働いた分はどうなりますか
-
出ます。労働基準法37条4項が、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定めています。
年俸制であっても、この規定は外れません。法定休日に働いた分の割増も同じです。「年俸だから何時間働いても同じ」という説明は、この2つを落としています。給与明細に深夜手当の欄があるか確認してください。
- 月60時間を超えたらどうなりますか
-
割増率が上がります。労働基準法37条1項のただし書により、1か月について60時間を超えた時間外労働は、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算することになっています。
年俸に割増賃金を含めているという説明があっても、この5割の部分まで含んでいるかどうかは別です。含めるなら、その時間数と金額が分かれて示されている必要があります。60時間を超える月がある人は、明細の内訳を確認してください。
- 管理職で年俸制です。両方だと残業代は出ませんか
-
分けて考えてください。管理監督者に当たるかどうかは労働基準法41条2号の話で、年俸制かどうかとは関係がありません。
管理監督者に当たる場合は労働時間・休憩・休日の規定が適用されませんが、深夜割増は外れません。そして管理監督者に当たるかどうかは、肩書きではなく実態で決まります。役職があるだけでは該当しないので、まずそちらの判断から確認することになります。
- 年俸が下がると言われました
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合意なく下げることはできません。年俸の額は労働契約の内容なので、変更するには原則として労使の合意が要ります。
就業規則を変えて一方的に下げる方法もありますが、労働契約法9条により、労働者と合意することなく就業規則の変更で不利益に変更することはできないのが原則です。例外として同法10条の要件を満たす場合がありますが、そこには変更の合理性が求められます。金額と時期を書面で確認してください。
- 未払いの残業代を請求できますか
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期限内であれば請求できます。労働基準法115条は賃金の請求権を5年としていますが、附則143条3項により、当分の間は退職手当が5年、それ以外の賃金は3年です。残業代はこの3年のほうに入ります。
必要なのは、労働時間の記録と賃金の内訳です。タイムカードや勤怠システムの記録は会社側にあるので、在職中に自分の手元へ残してください。そのうえで、未払い賃金の請求は法律事件の代理に当たるため、扱えるのは弁護士だけです。労働組合が運営する退職代行では扱えません。
まとめ:年俸制は、賃金の決め方です
整理します。
- 労働基準法に「年俸制」という労働時間の制度はない
- だから37条の割増賃金の義務は外れない
- 年俸でも毎月1回以上支払う(24条2項)
- 含めるには、通常の賃金と割増部分を判別できることが条件
- 深夜割増(22時〜5時)と休日割増は外れない。月60時間超は5割以上
まず、労働条件通知書に内訳が書かれているかを見てください。金額と時間数が分かれていなければ、判別できない形です。


