「退職金の相場は1,000万円くらい」と書いてある記事を見ました。
その数字は、勤続20年以上で45歳以上の人のものです。
この記事でわかること
- 統計の対象がどこまでか
- 退職事由別・学歴別の平均額
- 勤続年数でどう変わるか
- 自分の額を出す方法
結論:統計の対象は、かなり狭いです
数字を見る前に、範囲を確認してください。

厚生労働省の令和5年就労条件総合調査が、退職給付の支給実態を調べています。この調査は5年ごとで、直近が令和5年です。
集計の対象は、こう書かれています。
退職給付(一時金・年金)制度がある勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がいた企業について、令和4年1年間における勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に対し支給した又は支給額が確定した退職者1人平均退職給付額
3つの条件がかかっています。退職給付制度がある企業であること、勤続20年以上であること、45歳以上であること。
30歳で勤続8年の人が辞めたときの金額は、この統計には入っていません。「退職金の相場」として出回っている数字の多くは、ここから来ています。


退職事由で、これだけ変わります
その前提で、数字を見ます。

| 退職事由 | 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(現業職) |
|---|---|---|---|
| 定年 | 1,896万円 | 1,682万円 | 1,183万円 |
| 会社都合 | 1,738万円 | 1,385万円 | 737万円 |
| 自己都合 | 1,441万円 | 1,280万円 | 921万円 |
| 早期優遇 | 2,266万円 | 2,432万円 | 2,146万円 |
(令和5年就労条件総合調査。勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)
どの学歴でも、いちばん高いのは「早期優遇」です。定年より高くなっています。会社が人員を減らしたい局面で上乗せするので、こうなります。
自己都合は定年より低い水準です。大学・大学院卒で1,441万円、定年との差は455万円あります。
高校卒(現業職)では、会社都合が737万円で自己都合の921万円より低い形になっています。ここは集計対象の人数や構成で動くところなので、「会社都合のほうが損」と読まないでください。


勤続年数で、桁が変わります
同じ調査に、勤続年数別の数字もあります。

定年退職者の数字です(大学・大学院卒、管理・事務・技術職)。
| 勤続年数 | 1人平均退職給付額 |
|---|---|
| 20〜24年 | 1,021万円 |
| 25〜29年 | 1,559万円 |
| 30〜34年 | 1,891万円 |
| 35年以上 | 2,037万円 |
20〜24年と35年以上で、1,016万円の差があります。倍近くです。
退職金は勤続年数に対して比例では増えません。多くの規程が、後半ほど支給率を高くする作りになっています。だから「あと2年で次の階級に上がる」といった段差が、規程の中に存在します。
この表でいちばん短い階級が、勤続20〜24年です。それより短い人の数字は、この調査には出てきません。


そもそも、ない会社が4分の1あります
平均額より先に確かめることがあります。

退職給付制度がある企業の割合は74.9%です。裏を返すと、25.1%には制度がありません。
企業規模で差があります。
| 企業規模 | 制度がある割合 |
|---|---|
| 1,000人以上 | 90.1% |
| 300〜999人 | 88.8% |
| 100〜299人 | 84.7% |
| 30〜99人 | 70.1% |
産業別では、宿泊業・飲食サービス業が42.2%と低く、複合サービス事業が97.9%と高くなっています。運輸業・郵便業は69.9%です。
制度がある企業の中では、形態も分かれます。退職一時金制度のみが69.0%、退職年金制度のみが9.6%、両制度併用が21.4%。一時金だけの会社が7割です。
退職金は法律で義務づけられた制度ではありません。就業規則か退職金規程に定めがなければ、支払われません。


自分の額は、規程からしか出ません
平均を見ても、自分の額は分かりません。

見る場所は3つです。
| 見る場所 | 何を確かめるか |
|---|---|
| 退職金規程(または就業規則の退職金の章) | 計算式。基本給×支給率か、ポイント制か |
| 支給率の表 | 自分の勤続年数の行と、自己都合の列 |
| 支給の条件 | 勤続何年から出るか。懲戒解雇のときの扱い |
多くの規程が、自己都合と会社都合で支給率を分けています。同じ勤続年数でも、辞め方で額が変わります。
そして「勤続3年未満は支給しない」といった下限が置かれていることがあります。ここに引っかかると、平均額の話は関係がなくなります。
就業規則は、労働基準法106条により周知が義務づけられています。退職金規程が別冊になっている場合も、同じく見せてもらえるものです。
辞めると言う前に、確かめてください。言ったあとだと、落ち着いて読む時間が取れません。


よくある質問
- 退職金の相場はいくらですか
-
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査によれば、自己都合退職の1人平均退職給付額は大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,441万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,280万円、高校卒(現業職)で921万円です。
ただしこの数字は、退職給付制度がある企業の、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者を集計したものです。それより若い人や勤続の短い人は含まれていません。自分に当てはまる数字として見ないでください。
- 20代で辞めたらいくらもらえますか
-
この調査からは分かりません。集計の対象が勤続20年以上かつ45歳以上に限られているためです。
金額を知るには、自分の会社の退職金規程を見るしかありません。多くの規程には勤続年数ごとの支給率の表があり、そこに自分の年数を当てはめます。「勤続3年未満は支給しない」といった下限が置かれていることもあるので、その条項も確認してください。
- 自己都合と会社都合でどれくらい違いますか
-
調査では、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で自己都合1,441万円、会社都合1,738万円、定年1,896万円となっています。自己都合と定年の差は455万円です。
ただし高校卒(現業職)では会社都合737万円、自己都合921万円と逆の並びになっています。集計対象の構成で動く部分があるので、「会社都合のほうが必ず高い」とは言えません。自分の会社の支給率の表で確かめてください。
- 早期退職に応じると得ですか
-
金額だけを見れば、早期優遇はどの学歴でも最も高い水準です。大学・大学院卒で2,266万円、高校卒(管理・事務・技術職)で2,432万円、高校卒(現業職)で2,146万円となっていて、いずれも定年より高くなっています。
ただし応じるかどうかは金額だけの話ではありません。次の収入がいつから始まるか、失業保険の扱いがどうなるかまで含めて計算してください。募集の条件は会社ごとに違うので、提示された書面を確認することが先です。
- 退職金がない会社もありますか
-
あります。退職給付制度がある企業は74.9%で、25.1%には制度がありません。企業規模別では30〜99人が70.1%、産業別では宿泊業・飲食サービス業が42.2%と低くなっています。
退職金は法律で義務づけられた制度ではありません。就業規則や退職金規程に定めがなければ、支払われないのが原則です。求人票の「退職金あり」の表記だけで判断せず、規程の実物を確認してください。
- 勤続年数でどれくらい変わりますか
-
定年退職者(大学・大学院卒、管理・事務・技術職)で見ると、勤続20〜24年が1,021万円、25〜29年が1,559万円、30〜34年が1,891万円、35年以上が2,037万円です。20〜24年と35年以上では1,016万円の差があります。
退職金は勤続年数に比例して増えるとは限りません。多くの規程が後半ほど支給率を高くする作りになっているためです。自分の規程の支給率の表を見ると、どこに段差があるかが分かります。
- 退職一時金と退職年金は何が違いますか
-
一時金は退職のときにまとめて受け取る形、年金は分割で受け取る形です。調査では、制度がある企業のうち退職一時金制度のみが69.0%、退職年金制度のみが9.6%、両制度併用が21.4%となっています。
税金の扱いも変わります。一時金は退職所得として退職所得控除の対象になり、年金は公的年金等の雑所得として扱われるのが原則です。どちらを選べるかは規程によります。
- 規程を見せてもらえません
-
労働基準法106条が、使用者に就業規則の周知を義務づけています。退職金規程が別冊になっている場合も、就業規則の一部として同じ扱いです。
「見せられない」と言われる筋合いのものではありません。それでも出てこない場合は、労働基準監督署に相談できます。閲覧できたら、支給率の表と支給条件の条項を写しておいてください。あとから内容が変わったときに比べられます。
まとめ:数字の前に、範囲を見てください
整理します。
- 統計の対象は勤続20年以上かつ45歳以上。若い人の数字は入っていない
- 自己都合の1人平均は大学・大学院卒1,441万円(令和5年調査)
- いちばん高いのは早期優遇で、定年より上
- 勤続20〜24年と35年以上で1,016万円の差
- 制度がある企業は74.9%。30〜99人規模では70.1%
自分の額は、規程の支給率の表からしか出ません。平均を調べる時間で、規程を1枚見るほうが早いです。


