「辞めるなら損害賠償を請求する」と言われた瞬間に、退職の話が止まってしまうことがあります。
ただ、言われることと、実際に認められることは別です。 法律には、会社が使える範囲をあらかじめ狭めておく条文があります。
どこまでが脅し文句で、どこからが本当に検討される話なのか。条文と手順に沿って整理します。
この記事でわかること
- 「辞めたら違約金」の契約が禁止されている理由
- 認められにくいケースと、検討されうるケースの境目
- 言われた直後にやること、やってはいけないこと
- 最後の給料から勝手に引かれたときの対応
結論:言われても、そのまま通る話ではありません
会社が「請求する」と言うこと自体は止められません。止められるのは、それが認められるかどうかのほうです。
その場でサインしないでください。 言われた金額をそのまま受け入れる必要はありません。

| よく言われる文句 | 実際の扱い |
|---|---|
| 辞めたら違約金100万円と契約書にある | あらかじめ額を決める契約は労働基準法16条で禁止されています |
| 急に辞めたせいで損害が出た | 退職そのものを理由に請求するのは、認められにくい形です |
| 引き継ぎをしなかったから賠償しろ | 損害の中身と因果関係を、会社が証明する必要があります |
| 損害分を最後の給料から引く | 賃金は全額払いが原則です(労働基準法24条) |
共通しているのは、どれも「言うだけなら誰でも言える」ということです。実際に取るには、会社の側が手順を踏まなければなりません。
そして、その手順はかなり重い。だから多くは、言葉のところで止まります。
とはいえ、言われた側は動けなくなります。その場で自分ひとりで応じないでください。 話し合いに入れるのは労働組合型と弁護士型で、金額の請求まで争うなら弁護士法人ガイアの退職代行サービスのような弁護士型になります。
あらかじめ額を決めておく契約は禁止されています
まず押さえてほしいのが、労働基準法16条です。
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」というのが条文の全文です。
出典は労働基準法(e-Gov法令検索)の第16条です。見出しは「賠償予定の禁止」となっています。
「1年以内に辞めたら50万円」は、この条文に当たります
入社時の誓約書や契約書に、こういう文言が入っていることがあります。
- 1年以内に退職した場合は違約金として◯◯円を支払う
- 途中で辞めた場合は研修費用の全額を返還する
- 退職により生じた損害は一律◯◯円とする
金額をあらかじめ決めている時点で、16条の対象になります。 実際にいくら損害が出たかと関係なく額が決まっているからです。
サインしてしまっていても同じです。この条文に反する部分は、契約として効力を持ちません。
ただし、賠償請求そのものが禁止なわけではありません
ここは正確に書きます。16条が禁じているのは、あらかじめ額を決めておくことです。
実際に損害が発生していて、それを後から請求すること自体まで封じているわけではありません。だからこそ、次の「どんなときに認められるのか」が問題になります。
言われた金額をそのまま受け止める必要はありません。 どこまでが実際に通る話なのかを、下で分けます。
認められにくいケースと、検討されうるケース
境目は、退職したこと自体が原因か、それとは別の行為が原因かです。

| 会社の主張 | 位置づけ |
|---|---|
| 急に辞めて業務が回らなくなった | 退職は労働者の権利です。これを理由にするのは無理があります |
| 引き継ぎをしないまま辞めた | 具体的にいくらの損害が出たかを、会社が示す必要があります |
| 繁忙期に辞められて売上が落ちた | 売上の変動を退職だけに結びつけるのは困難です |
| 通常の業務で起きたミス・事故 | 会社が事業から利益を得ている以上、全額を個人に負わせる考え方は取られていません |
| 故意に設備を壊した | 退職とは別の行為です。ここは検討の対象になります |
| 顧客名簿を持ち出して同業を始めた | 退職ではなく持ち出しが問題になります |
| 貸与品を返していない | 賠償ではなく返還の話です。返せば終わります |
上4つと下3つで、性質がまったく違います。上は「辞めたこと」、下は「辞めたことと関係のない行為」です。
「損害賠償を請求する」と言われたときは、まず自分がどちらの話をされているのかを見てください。
通常のミスは、個人が全部を負う形にはなりません
仕事をしていれば、ミスは起きます。それを全部その人に払わせるなら、会社は利益だけを取ることになります。
裁判で会社から労働者への請求が扱われるときも、その範囲は大きく絞られる考え方が取られています。 会社が事業から利益を得ている以上、そこで生じる損失も会社が引き受けるという整理です。
私は運送の現場にいましたが、荷物の破損や誤配は日常的に起きるものでした。それでも、処理は会社の側で行われていました。

研修費や資格の費用を返せと言われたら
これは16条だけでは決まらない、少し込み入った話です。
会社が費用を立て替えて、一定期間働いたら返さなくていい。この形は、貸したお金として扱われることも、辞める自由を縛る仕組みとして扱われることもあります。
判断の材料になるもの
自分のケースがどちらに近いかは、次を見ると整理できます。
- その研修や資格は、会社の業務命令だったか、自分の意思で受けたか
- 受けなければ仕事にならないものだったか、任意だったか
- 返さなくてよくなるまでの期間が、内容に対して長すぎないか
- 借用書など、貸し借りとしての書面が実際に交わされているか
業務に必要で、命令で受けさせられたものほど、返還を求めにくくなります。 逆に、本人が希望して会社が立て替えた形なら、貸し借りとして扱われる余地が出ます。
ここは事情によって結論が変わるところです。書面を持って、次に書く相談先で確認してください。
言われたときに、その場でやること
慌てて何かにサインすると、後で効いてきます。やることは3つだけです。

1. 認めない。サインしない
「わかりました」「弁償します」と言わないでください。誓約書、念書、示談書。名前が違っても、その場で書面に署名するのは避けてください。
考えさせてください、と言えば足ります。持ち帰る理由として十分です。
2. 言われた内容を残す
日付、場所、誰が、どういう言葉で言ったか。その日のうちにメモしてください。書面を渡されたなら、返す前に写真を撮っておきます。
金額が出ているなら、その根拠を書面で出すよう求めるのも有効です。根拠を出せないまま止まることがあります。
3. 相談先に持っていく
ひとりで判断しないでください。無料で相談できる窓口があります。
| 窓口 | 扱う内容 |
|---|---|
| 総合労働相談コーナー(厚生労働省) | 各都道府県の労働局に設置。予約なし・無料で相談できます |
| 労働条件相談ほっとライン(厚生労働省) | 平日夜間と土日も受付。電話で相談できます |
| 法テラス | 収入が一定以下なら、弁護士費用の立替制度を使える場合があります |
費用が心配で相談をやめる必要はありません。 上の2つは無料で、法テラスには立替の仕組みがあります。

最後の給料から勝手に引かれたら
損害賠償の話は、給料の天引きという形で出てくることがあります。ここは条文がはっきりしています。
労働基準法24条は、賃金を通貨で、直接、その全額を支払うことと定めています。例外は、法令に定めがある場合と、労使協定がある場合だけです。
会社が「損害分だから」と一方的に差し引くのは、この原則に反します。
退職時の返還にも期限があります
労働基準法23条にも、期限が定められています。退職した人の請求があれば、7日以内に賃金や積立金などを返還すること。 これが条文の内容です。
「損害の件が片付くまで払わない」という形で止められたときは、この条文が使えます。同じ条文には、争いがある場合でも異議のない部分は支払わなければならないとも書かれています。
つまり、揉めている部分を理由に全額を止めることはできません。

退職代行を使うなら、この場面は選べる相手が変わります
損害賠償を持ち出されている状態は、単に退職を伝えるだけの場面ではありません。法的な主張に、法的に返す必要があります。
退職代行は運営元によって、できることが変わります。ここを間違えると、お金の話がまったく進みません。
| 運営元 | 退職の伝達 | 有給・未払い分の交渉 | 訴訟の代理 |
|---|---|---|---|
| 民間企業型 | できる | できない | できない |
| 労働組合型 | できる | できる | できない |
| 弁護士型 | できる | できる | できる |
民間企業が会社とお金の交渉をすると、弁護士法違反にあたる恐れがあります。これを非弁行為といいます。資格のない人が法律事務を行うことです。
損害賠償を請求すると言われている、あるいは天引きされそうな状態なら、弁護士型を選んでください。 交渉と請求まで扱える枠はここだけです。
弁護士法人ガイアの退職代行サービスが弁護士法人の運営にあたります。

まだ何も言われていないなら:頼む範囲での選び方
ここまで読んで、「言われるのが怖くて動けない」という段階なら、状況は違います。まだ請求されていないなら、普通に辞められます。
有給を消化してから辞めたい、退職日を調整したいという交渉があるなら、労働組合型が扱えます。円満退職ユニオンは労働組合の運営です。

同じ労働組合型で、性別ごとに分かれているところもあります。男性は【男の退職代行】、女性は【わたしNEXT】が対象です。運営している労働組合は同じで、扱える範囲も変わりません。


交渉するものがなく、伝えるところだけで止まっている場合。ここは退職代行辞スルが、当日の朝の申し込みにも対応しています。


無断で行かなくなるのとは、分けて考えてください
損害賠償が怖いあまり、連絡を絶ってしまう人がいます。これは逆に不利になります。
賠償が認められやすくなるからではありません。離職票や源泉徴収票が届かなくなり、失業保険の手続きに進めなくなるからです。

よくある質問
- 契約書に違約金の記載があります。払う必要がありますか?
-
労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めることを禁止しています。あらかじめ額が決められている部分は、契約として効力を持ちません。書面を持って労働局の総合労働相談コーナーで確認してください。
- 引き継ぎをせずに辞めたら請求されますか?
-
引き継ぎをしなかったこと自体を理由に賠償が認められるのは、現実的ではありません。会社の側が、具体的な損害の額とその原因を示す必要があるためです。ただし、可能な範囲で引き継ぎ書を残しておくと、話が長引きにくくなります。
- 仕事中に起こした事故の弁償を求められています
-
通常の業務で起きたものであれば、全額を個人に負わせる考え方は取られていません。会社が事業から利益を得ている以上、そこで生じる損失も会社が引き受けるという整理です。故意や、それに近い重い過失があった場合は別に扱われます。
- 最後の給料から損害分を引かれました
-
労働基準法24条は、賃金を全額支払うことを定めています。例外は法令に定めがある場合と労使協定がある場合に限られます。一方的な天引きが行われたときは、労働局の総合労働相談コーナーに相談してください。
- 退職金を「損害の件が片付くまで払わない」と言われました
-
労働基準法23条は、退職した人の請求があった場合、7日以内に賃金や金品を返還することを定めています。同じ条文で、争いがある場合でも異議のない部分は支払うこととされています。全額を止める理由にはなりません。
- 研修費用の返還は必ず断れますか?
-
必ずとは言えません。実質的に辞める自由を縛る仕組みになっているか、貸し借りとして成立しているかで扱いが分かれます。業務命令で受けた研修ほど返還を求めにくくなります。契約書と誓約書を持って相談してください。
- 弁護士に頼むお金がありません
-
法テラスに、収入が一定以下の人を対象とした費用の立替制度があります。無料の法律相談も用意されています。あわせて、労働局の総合労働相談コーナーと労働条件相談ほっとラインは無料で使えます。
- 損害賠償を言われた場合、労働組合型の退職代行では対応できませんか?
-
労働組合が扱えるのは労働条件についての交渉です。会社からの損害賠償請求に法的に反論する行為は、弁護士でなければ扱えません。すでに請求を持ち出されている場合は弁護士型を選んでください。
まとめ:確認する順番は決まっています
要点を整理します。
- 言われることと、認められることは別です
- あらかじめ額を決めておく契約は、労働基準法16条で禁止されています
- 退職そのものを理由にした請求は、認められにくい形です
- 通常の業務で起きたミスを、全部個人に負わせる考え方は取られていません
- その場でサインしない。言われた内容を記録する。無料の窓口へ持っていく
- 給料の天引きは24条、退職後の返還は23条が根拠になります
順番としては、記録を残すことが先です。相談は、その記録を持って行くほうが早く進みます。
条文は労働基準法(e-Gov法令検索)で確認できます。制度や運用は変わることがあるので、最新の内容は各機関の公式サイトで確認してください。
賠償の話が片付いたあとは、辞めてからのお金と、次の仕事の話になります。
揉めた会社を出たあとほど、次を決める前に条件を見ておいたほうが楽です。20代ならゼロイチ転職、勤務地を絞りたいなら転職支援サービスが相談の窓口になります。


